「先ほど述べた興奮状態ですね。激しい怒りの感情。これは、ほんとひどいときは、暴れたり暴言を吐いたり、ものを投げつけたりと、かなりひどかったんです。お医者さんに、そういうときは、鎮静剤を打ってもらったり、ろれつが回らないほど効き目の強い薬を飲んでしのぐしか他に方法がなかったっていうか、抑えが効かなかったんですね。」
「興奮、怒りと並行して起こったのが、うつ状態でした。私の場合は、幸い食べることと眠ることはできていたんですけども、それ以外は1日中ぼぉーっとして何にもする気が起きないんですね。ちょうどおしりと椅子の間に強力な接着剤でもへばりついているかのように、体を動かせない。ひどいときには眼球すら動かせない、固まった状態。それでも私の性分として、出突っ張りなところがあるので、『とにかく外に出たいな、動きたいな』という思いで、必死になってあがいていたのを覚えています。」
「強迫性障害なんですけども。私は大きく2つの症状がありまして、1つは確認強迫。これは大きな書店などで、本が本棚にびっちり隙間なく並んでいる。その中から本を1冊取り出しパラパラッと立ち読みする。で、再びその本を本棚にしまうときに、本の帯が破れてしまったんじゃないかとか、その本が曲がったり折れたり歪んだりしてしまったんじゃないかということが、やたら気になるんですね。確認しても気になる。その繰り返しで、挙げ句の果てには、20分、30分と本棚の前に立ちつくして、へとへとになるまでいることもしょっちゅうありました。
もう1つは加害強迫。害を加えると書くんですが、駅のホームで電車を待っているときに、自分の前で待っている人を線路へ突き落とすんじゃないかという思いが、何の前触れもなしに突然湧いてくるんですね。当然、私はわざとそんなことをしようとは思っていないです。だから、突然、なんでこのときにこのタイミングでこういう思いが湧いてきたのかと、自分自身に強烈な恐怖心が出てきたんですね。怖かったです、とっても。ちょうど折しもその当時、森田療法の流れを汲むクリニックの先生に相談したんですね。そしたら、『きみは決してそんなことはしないよ』とはっきりおっしゃった。そのことが大きな安心感につながったんですね。」
森田療法:1919年(大正8年)に東京慈恵会医科大学精神神神経科初代教授の森田正馬(もりたしょうま)により創始された神経症に対する精神療法(心理療法)であり、症状をあるがままに受け入れることができるようにする訓練の方法である。
「幻聴についてですが、個人的には『幻聴』という言葉は嫌いなんです。なぜかと言いますと、まったく本人にとっては、幻ではなくて、現実そのものだからです。私の場合は、一定の男の声で、『〜〜するな』とか、『〜〜な状態になってもしらんぞ』というふうに、どんどんどんどん自分を追い込んでいくような内容の声でした。
幻聴や被害妄想のときには、必ずと言っていいほど前触れ、前兆というのがあります。最初、周囲の風景がなんかこう違って見えてくるんですね。例えば、一定の部分が誇張されて見えたり、光って見えたり、なんでもない穴が目玉に見えたり、奇妙な見え方になる。そのうちに頭の中が、なんかざわざわするぞとか、重たいなという違和感が出てきますね。その時点で早めに薬を飲んでいれば、その症状は軽くて済むんですが、そこで放って置いてしまうと、頭の中に声が聞こえ始めるんですね。
特に困ったのは、その聞こえてくる声によって、本来、自分がしようとする行動ができなくなるということでした。1つは、入院中、外泊しているとき自分の衣類をタンスにしまうときに、『〜〜するな』とまさに聞こえてくると、固まるんですね。フリーズ状態ですね。前にも後ろにも腕を伸ばせられない。だから、そのときは非常に困った。あと、入院中に看護師さんに声をかけられた、そのときまさに声が聞こえていると、自分の中で聞こえている声によって、本来、看護師さんにしゃべろうとする言葉が出なくなる。シャットアウトされる、ストップがかかるという感じで、「あ”あ”ーーーー」っていうような声しか出ない。そういうときの、しゃべりたいんだけどしゃべれないもどかしさ、言葉が出ないもどかしさが、とても辛かったのを覚えております。」
「被害妄想についてですが、前触れというのは、幻聴とやや似たところがありまして、やはり周囲の風景が奇妙に見えてくる。例えば人通りの多い商店街などを歩いていると、すれ違う人、1人が自分に向かって悪口を言ってくる。それが最初は1人なんですが、3人、5人、10人、100人に、仕舞いにはすれ違うすべての人が、自分に向かって悪口を言ってくるような感覚に陥る。そうなったらもう平然と街を歩いていられなくなるんですね。その場にうずくまって、頓服(とんぷく)薬を飲んでしのぐんですが…。
私はその幻聴や被害妄想を、台風とか嵐のように喩え(たとえ)ているんですね。前兆というか、兆(きざし)、前触れが必ずあって、ここら辺で台風が発生したってわかるんですね。で、それが段々近づいてきて、頭の中を直撃して、土砂降りになって、ゴロゴロゴロって鳴って、そのうち消えていく。だから始まりがあって必ず終わりがあるんですね。だから、終わりが来るのをただひたすら待ち続けていた。そういう感じでした。
(頓服薬は)デパスです。たしか、前の病院にかかっていたときにデパスを処方されたんじゃないかなあと思います。
」
デパス(エチゾラム):抗不安薬