「コンフリクトというのは、英語で『対立』とか『衝突』という意味なんです。施設コンフリクトというのは、施設に対する反対運動、あるいは反対の声のことですね。
実は、退院して2年ぐらい経った頃、自分の家から歩いて通える施設ができたので、そこに重点を置いて活動しようと思って、施設の立ち上げとかに関わっていた時点から、周辺の住民の方からいろんな声を聞いたんです。例えば、『あんたら何しとるんや』『わしら認めてへんで』とか、『こういう施設ができたら資産価値が下がる』とか、『道の真ん中歩くな』とか、いろいろ言われたんです。また、その施設で、近隣住民の方々への啓発、もっと自分の施設を知って欲しいということも込めて、ニュースレターを配りながら掃除をしていたんです。そういう活動をしていたんですね、月1回。でも1年ほど経った頃、突然住民の一部の方から、『そんなものを配るな』『掃除もやめて欲しい』と言われたんです。で、やむなくその活動を中止せざるを得なくなってしまったんですね。で、結局その通っていた施設の、ま、ニーズと言うかな、利用者の(施設を)使う目的が多様化していったのと、人員規模が、施設の規模に対して通うメンバーがパンパンに膨れあがっていたので、もっと広い場所に引っ越したいなという声が上がった。引っ越すまでの2年間、そういういろんな声とかに遭って、相当しんどい思いをしたんですね。
こうした精神障害者への差別や偏見というのは、その個々人の責任じゃないと思うんです。今まで精神障害あるいは精神障害者について、正確な情報を伝えてこなかった日本の社会に責任があるんじゃないかなあっと、私は思っているわけです。」
「先ほど述べた小規模通所授産施設で、コーラス隊というのがあったんですよ。で、メンバー達がいろんなイベントなどで、歌をアカペラで披露する、そういうものなんですね。私は、歌が苦手というか歌うのから逃げていたので、司会をやっていたんですよ。その司会をするときに、ダジャレとかを入れながらしゃべっていたので、それを大勢の人が、ウケるにしろウケないにしろ、見聞きしてくれることに、『こりゃいいな』と思ったんですよ。『こんなに気持ちいいものなんだ』と、ステージに立つのがね。
もう1つは、ステージ上で、歌以外にメンバー自らの想いを詩にして読む、そういう機会があった。で、私も自作の詩を朗読していくうちに、こんなにたくさんの大勢の人が、見て聞いてくれているステージで、自分がこれまで歩んできた苦労とか苦悩をしゃべりたいな、語っていきたいな。精神障害のことをよく知られていないものですからね、もっといろんな人に広く知って欲しいなという思いが芽生えたんですね。で、その翌年辺りから、大学と専門学校、保健所、自治体などで人権に関するイベントが行われたりするところに呼ばれまして、いろんな場でいろんな人達に体験発表をするようになったんですね。」
「今の自分にとって体験発表というものは、今まで自分が歩んできた道を振り返る機会であると同時に、決して、今の自分は1人の力でここまで来たんじゃないっていうことを、発表するたびに再認識さしてもらっている場なんです。つまり、体験発表というのは、いろいろな人たちへの情報発信と同時に、そのときどきの自分自身にも問いかける意味を持っているようにも私は考えています。
(発表は)2004年ですから、退院して2年後の春先ぐらいからですね。評判ですか、ほんとね、行く先々でまったく違うんですよ。福祉系の大学とか専門学校の人たちは一所懸命聞いてくれるんですけど、ご年配の方とかは、なんか聞いているのか聞いていないのかよくわからないという場合もありましたし。顔でわかるっていうかな、そのー姿勢がね。それで僕もしゃべりやすかったりしゃべりにくかったりとか、そういうのはいろいろ感じましたね。20箇所ぐらい行っているんじゃないでしょうか。」
「これも失敗談なんですけど、今から5年ほど前に当事者会を立ち上げたんですね。とは言っても、自分にとって当事者会というのが、未知の領域だったので、もう、手探り状態、試行錯誤の日々だったんです。努力していって、多いときに参加人数が10人ぐらいになったときもあったんですが、私自身、また、その周囲でいろんな事情が重なって、当事者会は、とうとう2年ぐらいで衰退してしまったんですね。その後、また心機一転して、別の場所で当事者会を立ち上げたものの、集まりが悪くて、どうにかこうにか2年ぐらい運営したあと、今はちょっと休会状態になっているかなあと思います。
当事者会を運営しながら私自身が学んだことは、当事者会という枠に囚(とら)われすぎたらしんどいなあっていうことですね。やっぱり当事者会というのを、あえて作らなくても、『ふらっと』などのサロン、普段の空間でセルフヘルプ機能というのはなされている、自然に。だからそういうの(当事者会)が本当に要る環境かどうかというのを、よく見極める必要があるかなっと思います。」
「アサーショントレーニングとの一番最初の出会いは、もう10年以上前。僕の一番調子が悪かった頃に、平木典子(ひらきのりこ)先生が書かれたアサーショントレーニングの本を読んだ。簡単に言ったら、アサーショントレーニングというのは、自己表現の仕方を学ぶ方法の1つなんですね。で、自分の主張をしながら、なおかつ相手の主張にも耳を傾ける。歩み寄って、相互尊重の主張の仕方というのを『アサーティブ』と言うんです。調子が悪かった自分にとって、そのアサーションっていうのは、まだまだハードルは高かったんですけども、退院してから、『ふらっと』に通うようになって。
精神疾患とかを抱えている者の多くは、自己主張が苦手なんですよ。で、自分の不満とか怒りをうまく言葉にできないが故に、たぶん暴れてしまったりすると思うんですね。その怒りがマイルドなうちに言語化するということが大事だと。そういうことも含めて、人と人とのやりとりの仕方というのを学ぶ。そういう、『自分の気持ちを相手に伝えたい講座』という公開講座を開いたら、人がたくさん来てくれて。自分のためになったとか、役立ちましたという声を多く聞いたんですね。それぐらいやっぱり、今の自分にとってもアサーショントレーニングというのは、息づいているなと思います。今は、やっていないですけども。」
「レールネットワークというのは、精神障害者のJR、大手民鉄への運賃割引を実現する会の愛称なんです。今年2009年の2月に立ち上げた、奈良県を出発点とした、当事者が主体の活動です。現在のところ、身体障害者と知的障害者には、JRまたは大手民鉄の運賃割引があるんですが、精神障害者にはいまだにその適用がない。その三障害横並びにして欲しいという願いから、今後、国とか各鉄道会社に向けて、要望書を出したり、署名したり、そういうのを続けて運動をしていこう、それがレールネットワークです。」
「なんで、ここまで、退院してからいろんな活動に臨んでいるかと言ったら、好きなんですね、やることが。好きだからこそ、やっぱり続いているのかなとも思うし、『よしやるぞ』という気にもなれる。やはりそういうのって、とっても自分を励ましてくれるし、病状を安定させてくれるという点で大きいものですね。」