統合失調症と向き合う

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向谷地 生良さん
向谷地 生良さん
(むかいやち いくよし)
北海道医療大学大学院看護福祉学研究科教授
1978年に北海道浦河町の病院に精神科専属のソーシャルワーカーとして赴任し、1984年に地域活動拠点「浦河べてるの家」を設立。理事、アドバイザーとして活動している。向谷地さん等が提唱する精神障害を持つ当事者が自らの症状を含めた生活上の出来事を研究・考察する「当事者研究」が広がりをみせている。べてるの家の詳細は、ホームページ参照。
浦河べてるの家:就労支援事業所、グループホーム、共同住居などを運営。べてるは旧約聖書に出てくる地名で「神の家」という意味。全国から年間2,000人以上の見学者が訪れる。
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2べてるの家と地域について
 ① べてるの家の存在
●べてるの家は「精神障害者の聖地」、「生きやすい場」というイメージがあるようですが、どのように思われますか

「北海道だけではなく、この日高というエリアも、本当に経済的にも、過疎も含めて地域課題がいっぱいあるわけですね。産業もどんどんどんどん縮小してきたり、ここは海沿いですけども魚が捕れなかったり、高齢化ですとか。そういう意味では、私達が暮らしている地域は、何か恵まれて、それこそ暮らしやすくて生きやすい場ではけっしてない。ま、今はどこでもそうですけれど、その中でも、特にこの地域は大変ですよね。

そういう中でさらに統合失調症という病気を抱えるということは、また二重・三重に大変なわけです。そういう意味では、私達は、そういう地域の中であえて地域の人達が、今日をどう生きるか。例えば、お店の売上に苦労したり、魚の捕れた捕れないで一喜一憂したり…。そうしながら生きている人達の生活感覚にあふれた苦労の中に、自分達も一緒に飛び込んでいって、昆布を仕入れて売って、売れた売れない、どうやったら売れるだろう、という当たり前の生活の中の生きづらさ、苦労の中に、私達も一緒に立ち混ざって生きていく。(それを)『苦労の取り戻し』と私達は言ったのですけど、それにずっとチャレンジしてきたのですね。

ですから、もし言っていただくとしたら、まさに『苦労の聖地』ですね。人が生きるということのありのままの素朴な苦労が、充ち満ちた場所ですよね。」

●苦労が充ち満ちた場所なのですか

「やっぱり苦労ですよ、生々しい。だからその中で生きるということは、いろんな失敗もするし、いろんなことが起きますし。特にこの病気をする人達は、やはり若くして倒れている人達が実に多いし、一般的にも普通の人の寿命よりも20年は短いと言われていますよね。

私達は、こうして37年活動していますけど、多くの仲間を失ってきた歴史でもあるし。でもその人達の歴史を、しっかりと経験を受け継いで、今日もこうして、ごくごく当たり前の苦労を大事にしながら、地域の中で暮らすということにこだわるということをやり続けてきたという意味では、大変なところですよ。

でも、外から来る人達はみんな、『べてるの人達は丈夫ですね』と言うのですよね。よく、『もう疲れた、もう疲れた』という人達が多い中で、浦河は朝から晩まで、結構忙しかったり(笑い)。

誰が何を指図しているか分からないのですけど、アリさんのように、みんなそれぞれ自立的に動いて、全体が回っているのですね。そういう意味で、人間らしい苦労を取り戻したい方にはいいかもしれません(笑)。

長い間こういう仕事をしてきて、やっぱり、こういう病気を経験したり、もろさを抱えていたり、何か、すぐ調子(が)悪くなったり、こういう人達が元気に暮らせるための条件作りというものをコツコツコツコツやってくると、それがしっかりと応用が利いて、社会のどの分野でもそれを活用できる大事なエッセンスを得られるというふうな手応えはありますね。」

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