がんと向き合う

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豊 秀之さん
(とよ・ひでゆき)
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神戸市在住。美容室経営。2008年、46歳のときに直腸がんが見つかる。4つ目の病院で、直腸がん切除術を受ける。一時的に人工肛門を設置。ステージは2b。「こんいろリボンの会」を作り、医療用かつらを置く台を全国の患者さんに無料で提供するほか、大腸検査の重要性を呼びかけている。家族は妻と娘。目標は、いつかホノルルマラソンに出ること。がん患者団体支援機構理事。
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7何かのために何かをしたい

「病気になって入院中、一時期本当に12キロぐらい痩せていたのですけど、それから退院してまた12キロくらい戻って、今はプラス1キロで13キロくらいになりました。前より元気そうなくらいなので、周りは少しずつ受け入れて『ま、大丈夫か・・』みたいな感じに多分なっていると思うのですね。

母親もがんで亡くしてますし、がんじゃなくても逝くときは人間いつか逝くな、というのをこういうのをきっかけに思えるようになったので、昔より精神的に強くなった、精神力がついたという気がします。逆に何かしたい、何かのために何かしたい、という気持ちが湧いてきた感じです。

がんになって気づいたこと、というような講演会を、少しですけど頼まれたらしたりします。あと、最近診断された方のお話を聞かしてもらったり、お話聞かしてもらって何ができるというのはないんですけど、『そんな心まで病気にならなくてもいいやん』というような感じのお話を一緒にさしてもらったりすることが最近よくあります。

話すテーマはいつも決まっています。自分の身体が尊いなということと、それと病気になっても生きているということは、何かのために生かされているという、この2つを話すだけです。そこに大きく気づいたかなというところですね。それともうひとつ挙げるとすると、ご縁の縁。家族もそうだし、周りの人ももともと縁があって親子になったり、夫婦になったりするという、ちょっと辛気臭い話をしています。

今までは小さい部屋で人の頭をチョキチョキ切っているような仕事なので、そんな機会もなかったですし、どっちか言うとそういうことは苦手なのです。でも何かのためになるんやったら、みたいな気持ちがすごく湧いて、できないこともできるようになってきたという感じですかね。人前に出るのが苦手でしたね。今でもそうかもしれない。でもそれが何かのためになるのかなと思うと、一歩が出られるようになったというのが、すごく変わったところですね。」

●かつらの台を全国に発送
かつらの台
美容師専用のカットウィッグの人形(左)を医療用かつらを置く台(右)として再利用。

「抗がん剤治療を受けている方でかつら(ウィッグ)をつけている方がいらっしゃるので、僕たちのカットの練習をする『カットウィッグ』という人形があるのですが、その人形を使い終わったら丸坊主にしてきれいに洗って、無料でお送りするという活動をしています。美容師の人たちを集めて、全国に送ったりしているのですが、それが非常に喜ばれています。

かつらを自分に似合うように作ってもらっても、置く台が紙だったりするんですよ。でも置いたらやっぱり形が崩れてしまうのですね。それをそのままそーっときれいに置いておけるような台として、人形をお送りしているのです。『こんなん、欲しかったやん』とか言われます。

今まではそのマネキンの部分はゴミになっていました。それに髪の毛が付いていて、髪だけを切るのが僕たちの練習だったので、切ったあとはいつも業者さんに、ゴミとして捨てていたのです。それの再利用をさしてもらっているのですが、それは何かすごいことを見つけたと思って。ちょっと誇らしい気持ちです。」

●こんいろリボンの会

「『今、乳がんがいちばん多いって言われているけど、直腸、結腸、S状結腸とかを足すと、大腸がんがいちばん多いねんで』と先生に言われました。でも腸の検査なんかは、年に1回ちゃんと検便(stool test)をしていると、オランダかどこかでは何万人という人が早期で発見できて簡単な手術で済んでいるらしいのです。だからもし日本でそういう仕組みがあって、検便とかいろんな検査をすれば、『2万人命が救えるよ』と言われたのです。

それを聞いて、何かその『ために』という気持ちがすごく湧いてきたんですよ。何か『みんなテストしような!』みたいな活動をしようと思って。

こんいろリボン
大腸がんの啓発活動に使われるダークブルーリボン

それでピンクリボンとか、レッドリボンとかあるじゃないですか。大腸は何かあるのかなと思って調べたら、ダークブルーだったんですね。それは合っているのかどうかわからないですけど、ダークブルーは暗すぎるな、と思って。ブルーもだいたい暗いときに使うし、ダークというのもこれはないで、と思って。それで『こんいろリボンの会』というのを作りました。(大腸がんの)メンバーはまだ私1人なんですけど。美容師のメンバーはいるので、カットウィッグの台を送ったり、『大腸検査しようね!』と訴えています。」

●健康診断は本当に大事

「昔は僕ら美容師の業界でも、保健所で健康診断があったんですよ。でも医療費が削減されているからか、そういうのもどんどんなくなっているので、健康診断をすることも訴えていきたいという気持ちもすごくあります。

術後すごく気になったので、先生に『僕の手術いくらかかっているのですか』と聞いたのです。そうしたら『だいたい250万円ぐらいかな』と言われました。そのうち180万円ぐらいを国が出して、県とか市が80万円ぐらい出すのですかね。個人が8万円とか。ということは2万人、もう少し低く見積もって1万人、早期に内視鏡で済んだら、すごく国家予算が助かるじゃないですか。そんなことはそんなに考えてないんですけど、早期に発見するために先にテストできるようにしたら、国も予算減るんちゃうかなと思いました。

僕なんかもあとどれくらい放っていたらもっとひどくなっていたのかわからないですけど、ひどくなってからだと本当にもっと大変じゃないですか。なんでもそうだと思うのですけど、早く健康診断をして見つけるというのは本当に大事だと思うし、この間知り合いの人で乳がんで亡くなった人がいて、会社の女の子のスタッフには、照れくさいけど『ちゃんとこんなんして(胸にしこりがないかどうか)確認しーよ』と言っています。」