「幸い、すごくいい先生に巡り合えたと思うのです。大きな病院ですと、主治医は1週間に1回、研修の先生方を何人か連れて回っていらっしゃるのが普通ですが、入院して間もなく、私が眠っていてふと気がつくと、その先生が側に座っていらっしゃいました。びっくりしていると、先生が『大丈夫だよ、また仕事すりゃいいじゃない』とおっしゃってくださったのです。『少し良くなったら、病院から仕事場に行くんだね』と先生に言われて、すごく信頼感が出てきたのです。そんなことがあり、『この先生について行こう』という気持ちになりました。

間もなく化学療法が始まり、月に1回のものをとりあえず4回やりましょうということになりました。1回目の抗がん剤が終わって1週間くらいして、シャワーを浴びていたら、頭の毛が全部ぞろぞろと固まって抜けてしまったのです。もう倒れそうになりながら必死でベッドに戻って来ると、担当の先生がすぐに来てくださって、手を取り合って泣いた覚えがあります。『これだけは仕様がないのよ』と言われて。その担当の先生は女性だったのですが、またそこで親しみを感じて『この先生になら何でも言える』というような気持ちでした。とにかく今までの仕事の情熱を『先生を信じる』ということに切り替えて、なんとか1日でも長く生きたいという気持ちで頑張ってきたと思うのです。」