「これは嬉しい質問です。最近、そう考えて、今のお話と基本的に同じことなのですけど、統合失調症は、そんなに神秘的でも、摩訶不思議な病気でもないのではないかなと。脳科学を知らないからというふうに叱られるのですが。要するに、人生が行き詰まっている時に、その人がどう反応するかですよ。ある人は胃潰瘍になったり、ある人は十二指腸潰瘍になって、大腸過敏症になったり、あるいは喘息を。統合失調症の人はそれが脳に、胃潰瘍だとかそういうのが出たのと同じような、あるいは喘息を誘発すると同じような機能が働いているのではないかなというふうに思うのですね。
脳科学がどうなっているかは別にして、私が臨床経験から想定する統合失調というのはそんな感じがするのですよ。人生がうまくいっていない、その時に反応する。脳と心の反応性不調モデルと呼んでいるのです。症状を和らげよう、それはあってもいいですよね。症状を和らげる。だけども、人生がうまくいかなくなっているというそこが解決されないと反応が続くわけですよね。『症状をなくそう』ではなくて、どうやってその人が生活していったらいいかということを中心に考えられる疾病モデルがないかというふうに、今、考えているところですね。
私の聞き違いではないと思うのですけど、iPS細胞の山中教授(山中伸弥;京都大学iPS細胞研究所))がテレビで言っていたのですが。『私がいろいろ研究していて、細胞がある組織を作って、目なら目、心臓なら心臓、そういう組織を作ってそこが目的を持って生きているというふうに思っていたら、細胞一個一個自身が目的を持って生きているというのが分かって感動した』と。細胞一個一個が目標を持って生きようとしている。目標が見つからなかったり、目標がうまくいかない時に躓(つまず)いたり、挫折したりする。それによって、いろんな不調反応が出てくる。だから私、統合失調症と他の疾患も、あまり区別ができなくて、区別しなくていいような……、いいと思う。
2歳、3歳の“イヤだイヤだ期”があるでしょ?それから中学生の時の反抗期とか、これもね、人生をどう生きていっていいか、2歳児なら2歳児なりでよく分からなくて、ああいう風に暴れたり大騒ぎしているのではないかなと。見るとね、分かりやすい。だからそこでちゃんと親が目標、子どものどういう能力、関心(事)、どんなことを思っているのかということを見極める。行儀を良くするように教えるだけではなくてね、どんなことをやりたがっているのかを関心を持って、いろいろ提案していく。そういうことと同じことがやはり反抗期にもあって……。
躓(つまづ)いている程度では、統合失調症を発症しないのだけども、本格的に見つからなかったり挫折したりする時に症状が出てくる。したがって症状を和らげるということもやってもいいのですが、それよりどう生きていったらいいか、そういうことを一緒に見つけ出す。潜在能力まで含めてですね。そういう視点になった時に、重度の精神障害を持った人、統合失調症がリカバリーするのではないかなというふうに、最近、思っているところです。
それがどういうふうにきちんとモデルとしてなるかは分からないのですけど、今、私が関心を持っているのは、そういうところなのです。精神疾患は、うまくいっていないので反応している。反応しないように脳のいろんな治療(を)するということもあるのでしょうけど。でもね、人間は反応するはずですよ。どう人生を切り開いていくか、その知恵を出すということで目覚ましい回復をしているケースを蓄積していますので、精神疾患の脳と心の反応性不調モデル、訴えたい(提案したい)ところです。
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① | 病名と症状に必要以上にびっくりしないこと。症状軽減のために薬物などの身体療法・心理社会的治療を活用しながらも、精神疾患形成過程に沿った支援を展開する。 |
② | 本人がもっている生活目標は何かを(自覚されていないことも多いので)、本人・家族・治療者で見つけ出すことに集中する。 |
③ | その生活目標を、本人・家族の価値観・流儀で実現する具体的な方法を検討し、実施する。 |
④ | リカバリー支援を継続する。 |