「神田橋(神田橋條治氏)さんの、療養(コツ)三部作(岩崎学術出版社)の初版本を読んだのは、そんなに昔じゃないと思いますけど。それからシュビングさん(G・シュヴィング)の「精神病者の魂への道」(みすず書房)だとか、中井(久夫)さんの一番最初に読んだ本が、精神分裂病のUP選書(みすず書房)なんて、ちょっと度忘れしちゃって。それから、オイゲン・ブロイラーの100年前に書かれた本などでも、やっぱり繰り返し繰り返し読んだっていうことがありました。近代精神医学の出発点、その前にも1つね、もう1人の大変偉大な人が、ドイツ人に(いて)、精神分裂病と躁うつ病、ま、うつ病圏もひっくるめて高名な精神医学者がいましたけど、この人の原典は、ぼくちょっと、翻訳本があったと思いますけど、ほんのちょっとつまみ食いで完読はしてませんので、あえて名前を挙げませんけど。どんなに優れた本でもね、一冊だけで全面的に間に合うという本はありませんから。」
「本の読み方というのは、自分で選んだ本だと、初読の場合が、なんとしてでもまえがきからあとがきまで全文読んでほしいんですよ。自分で買った本、あるいは読もうと思った本であれば。
読みきれなかったら、別な本、読みやすい本を読んでというか、また読んで、なんとしてでも完読すると。そうなって(完読して)からあとは、その本を部分的に読む。そういうふうにしないと、自分の知識はまったく系を成していませんから、そういうものを寄せ集めても、僕がそうだったように、こう思って、ここを一生懸命やっているうちに、ぐるぐるぐるぐる回って、ぐうっと回って、また出発点に戻ると、そういうことを何度も何度も繰り返しているうちに、今のように(なる)。知識というのは可能な範囲内で系を成すように習得して、それから必要なところを部分的にと。
だから、最初はできるだけ薄くてまとまっている本を読む。または薄い本を読む。そういうふうにならない限り、勉強すればするほど振り回されるから。もし勉強するのがイヤだったら、ほんとうに信頼できる、『このお医者さんだったらOKだ』という人に巡り会ったら、自分で勉強しないで、基本的に医者の助言に従って、日常でちょっとだけお医者さんの意見も加味して取捨選択ができるようにする。そこにはPSWも臨床心理士の人も加わる。そういう意味では、1人だけではなくて隣接している関連分野の人によるサポート、最低限でもその3点セットぐらいは揃える。その3点があれば椅子だって三脚だってひっくり返らないように座ることできますから。4点だったらもっと安定しますのでね。」