がんと向き合う

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星野史雄 さん
(ほしの・ふみお)
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東京家政大学非常勤講師。1997年、妻が乳がんで亡くなったことをきっかけに闘病記を集め始め、翌年、闘病記専門古書店「パラメディカ」を開店。2010年7月、直腸がん(ステージ4)+肝転移が見つかり、8月に手術。大腸がんの闘病記を過去に100冊以上読んでいた知識が、自身の闘病にも役に立っている。共同編著に『がん闘病記読書案内』。自らの闘病体験を記した『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』が2012年9月、産経新聞出版より発売された。
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4入院中の読書

「大学の非常勤講師をしているもので、入院中、その関係の本は少し読みました。普段は1日1冊ぐらいのペースで読みますが、入院中は元気もないもので、小説でも読もうかと思い、『鴨川ホルモー』という本を読んでいました。あと『ダンテクラブ』という、読むのに丸1日ぐらいかかる分厚いホラーミステリーみたいなものを、お腹を切ってベッドで横になりながら読んでいました。最後まで読みましたけど、『これは入院中読むのにふさわしい本ではないな、これだったら肝臓を切る痛みのほうがましだろうな』と思った記憶があります。ですから結論として、入院中にホラー小説は読まないほうがいいという気はしました。

かといって、私がいまさら入院中に宗教の本や人間の生き方はこうあるべきだという本を読んでも、たぶん受け入れないですね。」

かつて、乳がん末期の患者さんで知り合いがいて、その人が何回目かで入院するときに、『読みたい本を持って入院したい』と言うので、うちに注文が来ました。それは『死ぬ瞬間』という有名な本でした。僕はそのときにメールで聞いたのです。『入院中にお医者さんや看護師さんが出歩くなかで、『死ぬ瞬間』という本を患者が読んでいると、周りにショックを与えるのではないか』と言うと、『いや、それが目的で、主治医が来たら“死”について語るきっかけになるかもしれない』と言っていました。そういう読書もあるのかなと思いました。

後にその人は亡くなりましたけど、その人に本を売ったことを思い出して、入院中に何を読むべきか、少し考えていました。『病院で読むということ』という、入院期間中にどういう本を読んだのか、いろいろな人が体験を話している本がありますが、そういうことを思いました。」

●普通に本を読める幸せ

「入院中に何もせずにテレビばかり見ていると、テレビカードがすぐ1万円ぐらい飛んでしまいますね。入院中見ていたテレビでいちばん印象に残っているのは、NHK BSの『にっぽん木造駅舎の旅』という、日本全国の木でできた駅の建物を紹介する番組で、それが印象に残っています。温泉に行って食事をするという番組がよくありますが、観ていても何も感じないです。

ですから退院したら『温泉に行って食事でもしてきたらいいじゃないか』と言うのですが、まだ傷が痛かったりしますし、その後の抗がん剤で味覚が狂っていますし。そもそも何か食べたいという意欲が全然わいてこない。だから退院したら、お見舞いに『温泉の宿泊券を』と考える人もいるでしょうけど、相手の状況をよく考えないと、家で丸まって寝ているほうがいいという人もいるかもしれないですしね。何によって癒されるかは人によって違うのだろうなと思いました。

帰ってきてホラー小説は読んでいませんけど、娑婆に出てきて普通に本を読めるというのがいかに幸せかというのは感じました。」