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上野 直人さん
上野 直人さん
(うえの・なおと)
テキサス州ヒューストンの巨大医療センターのなかにある世界有数のがん専門病院M.D.アンダーソンがんセンターにて、腫瘍内科医として「がんのチーム医療(チームオンコロジー)」を推進中。血液・骨髄移植部および乳がん腫瘍内科所属。来日の機会に、がん医療についての一般市民および医療者向けの講演を行っている。著書に『最高の医療をうけるための患者学』(講談社) 。
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1医療者が“痛みを察する”ということはない?

「(米国には)そんなものはないです。日本もないです。皆、誤解しています。医療従事者は言われないとわかりません。痛みを伝えるというのはすごく重要で、痛いと思ったら『痛い!』と言わなきゃいけないし、がまんする必要はないという意識をもたなければいけません。1回痛いと言ったら医療従事者が理解してくれるかというと、たぶん理解してくれないと思います。だから常に会うたびに痛みを言うと。 たとえば熱が出たら温度計で測りますよね。あれと同じ感覚で、いわゆるひとつのバイタルサイン(生命徴候)というか、血圧、体温、心拍数と同じくらい、痛みのレベルを常に言うというのはすごく重要だと思います。相手が反応しようがしまいが、たとえば10段階で言うと『今日は1だけど、次に会ったときは2だった』とか。一瞬すごくつまらないような気がするのですが、そういうことを常に言うことによって、傾向を医療従事者に感じてもらうという習慣をつけなければいけません。言う努力というのはすごく重要です。」

Q. 痛いと言っても対応してもらえない場合は?

「『痛い』と言うと逃げる医療従事者がいて、逃げる人を追いかけても無理があると思います。あと医療従事者が痛みのレベルを察することができるかというと、察することのできる人もいるかもしれませんが、多くの人は察することができないのです。僕でもできません。察することができると思われたら、それは大きな誤解です。要するに、私たちは予言者や占い師ではないので、そこはやはりハッキリと言わなければダメです。でもそれは痛みだけではなく、すべての医療コミュニケーションのなかで『ハッキリ言う』というのはとても重要なことです。それを何度も繰り返すことによって、自分の主治医、あるいは主治医を囲む医療チームとの関係が構築されてきて、『察する』ことができるのかもしれません。でも赤の他人ですから皆、(言われないと)分からないですよ。」

Q. 痛みがとれないことはありますか?

「あります。痛みには、物理的な痛み、心理的な痛みがあり、心理的な痛みには自分の心から来るものと、周りの関係から来るものがあります。物理的な痛みはとれる傾向があります。ある一定のレベルまでは抑えることができ、あとはその痛みに対して、心理的にどう捉えるかということです。だから、痛いことを怒る人にとっては、一定のレベルまで痛みを抑えても、やはり完全には消えません。やはり患者さんが何をもとに『痛い』と言っているのかというのはかなり時間をかけて話さなければいけません。」