がんと向き合う

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上野 直人さん
上野 直人さん
(うえの・なおと)
テキサス州ヒューストンの巨大医療センターのなかにある世界有数のがん専門病院M.D.アンダーソンがんセンターにて、腫瘍内科医として「がんのチーム医療(チームオンコロジー)」を推進中。血液・骨髄移植部および乳がん腫瘍内科所属。来日の機会に、がん医療についての一般市民および医療者向けの講演を行っている。著書に『最高の医療をうけるための患者学』(講談社) 。
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2時間をかけて患者と対話

「(医療者側は)早い段階に患者と時間をかけて、その人の人生観というか、単にがんを診るだけではなくて、その人がどういう医療を求めているかを知るのがすごく重要ですね。それはある一定の努力をしても、結局赤の他人なので分からないのです。それだけに、患者自身が話してくれる人ほどそういう関係構築が早くなるので、いざ何か起きた時に対応がしやすくなるのです。」

Q. がんを告知するとき、どのようなことに気をつけていますか?

「たいていの人は、悪い話がくる時にそれを感じていますからね。だから『がんですよ』と言う前に、これから難しい話をしなければいけないということをまず伝えて、それでワンクッションおいて、がんであるという話、なぜがんなのかという話をします。たいていはそこで話は止まります。というのは、たぶんそこで(現実を)消化できる人というのはほとんどいないので。そういう患者さんが来るときは必ずひとりではなく周りの人も来るようにします。はじめはただ伝えるだけです。あまり治療の話もしないですね。ただその治るとか治らないは別として、『いい方向で一緒にやっていこうね』というところで話を終えます。そして、焦らない。焦る病気ではないのでね。

皆、がんというと『焦る』イメージがありますからね。しかし正しい状況を把握するには、やはり時間をかけなければいけません。その状況を把握できたら次に、きちんと全体の計画を立てます。スタートが悪いとあとで後悔することが多いので、そこはじっくり時間をかけてやります。だから焦る必要はないのです。半年とか3ヵ月待てということは言いませんが、明日手術をしなければいけないとか、明日化学療法しなければいけないというがんは数少ないのです。白血病とか一部のリンパ腫ぐらいで、ほとんどはそういう必要性はないのです。 」

Q. がんという病気の受け止め方に、日本と米国に違いはありますか?

「(がんの宣告を受けて)ショックを受けて、どういうプロセスを通るかというのはたぶん米国も日本もまったく変わりません。ただ、われわれ医療従事者がどういうふうに患者さんに話をするかというのはすごく差があると思います。がんの宣告を受けて落ち込んでいる、それで治療を選ばなければいけないという時のプロセスにおいて、常に患者に時間を与えます。

患者が質問することに対してわれわれは『積極的に質問してください』と声を掛けます。あるいは、常に周りに家族の人たち、友人たちがいっしょに来る、あるいは『テープレコーダーでちゃんと記録をしてほしい』とか、あるいは『質問するときにはちゃんとメモを持って質問の準備をしたらいかがですか』と言います。日々の診療において、患者が主体的になることが重要であるという診療スタイルがあるのです。決して僕らは『あなた、主体的になってくださいよ』とは言いません。でも、やはりそういうことをする患者さんがいい患者さんなのだという雰囲気を僕らが見せることによって、患者はだんだんと心を開いていくというとこだと思うのです。それが、患者が主体的になっていくプロセスだと思います。

日本でもそういうお医者さんはいらっしゃると思います。では皆そうかというと、たぶん多くはないと思います。米国も皆がそうではないですが、たぶん多いと思います。主体的になるというのは何も方針ではないのです。日頃のいわゆる医療従事者と患者とその家族のコミュニケーションスタイルの違いだと思います。昔は米国もそのコミュニケーションスタイルは日本と変わりませんでした。でもやはり患者が理解していないことは医療を停滞させ、いろんな訴訟や誤診や医療ミスの原因につながっていくので、これはよくないということで、数十年かけてコミュニケーションスタイルを変えようとして、今に至っているという経過があります。 」