「患者に『研究』という話をすると、途端に身を退いてしまう人もいっぱいいますが、実は研究がなければエビデンス(科学的根拠)がなくて、エビデンスがなければ実は教科書的なものは何もできないのです。その研究を進めるのは臨床研究ですから、臨床試験に積極的に参加するというのは、実は医療を作る立場になることなのです。それはもちろん医療従事者が話をすることも重要ですが、患者がそれに対して参加したいという気持ちがないといけないと思うのです。だから、情報を得るというある一定の努力は続けておられると思いますが、次にその情報を本当に正しいかを判断する、分からなければ、その情報がいいか悪いかを判断する(臨床研究という)プロセスに患者さんが加わっていかなければいけないのです。すごく難しいことですが、そこにフォーカスをおかないと、10年後20年後(日本の)医療はあまり進歩しないと思います。
今、患者会にしても国にしても『がん医療』がすごく重要だから『アウェアネス(啓発)』ということでキャンペーンがいっぱい行われているじゃないですか。あれは医療が前進しません。アウェアネスは増えますが、あのお金の半分以上は研究にいかなければいけませんし、その研究に医療従事者も患者も参加しないといけません。
たとえば米国でなぜがん医療がガーっと進むかというと、かなりのお金が研究に行くからです。たとえば胃がんの基礎研究、臨床研究を増やしてほしいと消費者たちが積極的に入っていくのです。そのお金が医学を前進させる人たちにどう分配されるかは実は消費者が大きく関わっているのです。それを20年間してきているので、前進が明確に出てくると思うのです。アウェアネスがダメだと言っている訳ではないですが、やはり違う面も焦点をおいていかないと、やはり医療はよくならないと思います。
それができるのが実は患者なのです。だから医療従事者はそこへ患者を主体的にもっていかなければいけないし、患者はその幅広い医療への参加の仕方があるということを気づいていかなければいけないと思います。今ちょうどその発展途上だと思いますが、ただアウェアネスだけで終わったら何が起こるかというと、いかにして外国から早い薬を導入するかということで、それはたぶん10年経っても同じことが起きていると思います。でもそれではいい医療ができないと思うのです。
日本のがん医療はたぶんいい方向に行っていると思います。ただ、5年後10年後にどうなりたいかというのは実は僕もよく見えていないところがあります。そこは統一しなければいけませんね。個人的に僕が望んでいる医療は、『患者がより参加しやすい医療』で、がんだけでなく作っていければと思います。
日本は非常に医療がやりやすい環境があるかもしれません。欧米は日本よりも格差社会です。もちろん今日本でも格差社会と大きく騒いでいますが、その格差と言ってもそれほど大きな格差ではまだないと思うのです。それだけに、医療にある程度のシステムを入れれば、ある一定のものはできると思います。そういう意味では日本の医療に期待できますが、さらによくするには患者さんが医療に参加しなければいけないという感じがします。その動きが一部に出てきているので、そこを積極的にサポートできたらいい医療ができるのではないかと期待しています。」