「1つは焦らないこと。2つ目は選択するのではなく『納得すること』が重要だということです。最近よく『選択しなければいけない』という印象をもっている人が多いのですが、それは誤解です。医療の真実、科学的真実はやはり医療側にしかないのです。患者に科学を理解してもらって、そして治療を選ぶというのはなかなか難しいと思います。ですからマスコミがよく誤解するのですが、米国ではABCの選択肢を患者さんに与えて『選びなさい』と言って、マクドナルドでAパックBパックを選ぶような感覚だと思っている人がいます。多少そういう選択肢的なものを与えるよりも、本当にその治療が自分の生活に合ったもので、納得できることのほうが重要だと思うのです。選択するというとすごくたいへんになるけれど、自分の今おかれている状況、たとえば生活環境、あるいは家族との関係、そこの中で選んでよかった、後悔していないというところに落としどころをつくると思うと、意外と楽かもしれないですね。たぶん与えられる選択肢はどれも正しいのです、よほど相手が悪ければ別ですが。そうなると、どちらを選択するかはやはり家族との話し合いや、あるいは本人が事実をどこまで消化しているかにかかってきます。
そして『自分を知る』というのはすごく重要ですね。今までは適当に自分のことを浅く見ていてもいいのですが、がんという重い病気になると、途端にその寿命が変わる可能性が出てくるので、人生観がすごく影響してきますよね。でもおそらくその人生観というのはそういう場にならないと自分ではなかなか分かっていないので、自分を知ることはすごく重要だと思います。
たとえば心配性で普段から何も決めることができない人に、積極的に副作用の強い可能性の治療をするというのは難しいですよね。逆に、あまり効きの強くない治療法で副作用の少ないのと、効きは強いけど副作用が強いという治療法を与えた時に、自分の性格を知っていれば、どちらを選択しなければいけないのかというのは直感的に分かりますよ。その辺の性格を正確に知るということと、やはり自分はどういう人生観をもっているということをドクターに言ってもらえればもらえるほど、いい治療法を医療側は提供するし、自分も納得できると思うのです。たぶんそこがすごく重要だと思います。皆、正しい答えを選ぼうとするからたいへんなのかもしれないですね。 」