統合失調症と向き合う

体験者の声 医療者・支援者の声 家族の声 私たちの活動紹介 イベント おしらせ
渡邉博幸さん
渡邉 博幸さん
(わたなべ・ひろゆき)
国保旭中央病院神経精神科
地域精神医療推進部部長
1992年千葉大学医学部卒業、同大附属病院研修医を経て、1998年大学院修了後、同精神科助手。2007年より同講師を経て、2009年に現職に就く。地方での精神医療の活性化を図るため、精神疾患に特化した訪問看護ステーション「旭こころとくらしのケアセンター」の設立など、様々な地域精神医療の仕組みづくりに関わり、それらとの強い連携のもと精神科医療を実践している。
movieImage
<<  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  >>
7地域で生活するときの留意点
●無理な日課を組まない

「ちょっとブレーキの話をしますが。まず無理な予定、日課は組まないでくださいということをお伝えしています。

まず朝起きる時間を決めて、寝る時間を決めて、日中にやる(こと)、主に家の家事ですけれども、を1つ決めて、それをこつこつと毎日こなしてみましょう、そういうふうに伝えています。庭掃きでも雨戸開けでもお風呂の掃除でもなんでもいい、そういう些細な家事のお手伝いを毎日こなすことによって、長く離れていて、ご本人への信頼感や、『退院したけどほんとにちゃんとできるの?』という気持ちをどうしても持ってしまうご家族様の信用を取り戻していただくことを大事にしましょう。

多くの方が、すぐ仕事とかデイケアに行きます、あるいはいろんなボランティア活動やサークル活動に参加しますとか、一足飛びで考えてしまうんですけども、まずご家族との関係を取り戻したり、信用を取り戻すところから始めましょうというふうに伝えています。」

●薬の服用を勝手にやめない

「2点目としては、『調子が良いからといって、お薬はやめないでください』というのは、医療者ですのでお伝えしています。お薬をやめたくなったとき、あるいはお薬をもっと減らしたいなという希望が出てきたときは、遠慮なく医師あるいは訪問看護に行っている看護師さん、担当を担っているケースマネージャー、PSWに率直に伝えてくださいと。それは決して悪いことではないんです。

入院中はどうしてもたくさんの他の患者さん達のいる中で生活しますから、お薬の飲み方も1日4回とか、あるいは量も多くなっていたりします。退院してある程度安定した生活を続けていければ、薬の量は、医療的な面から見ても減らしていけるんです。ただそのタイミングは、いろんな人の意見を取り入れて、みんなの了解の上でやっていくほうが失敗が少ないので、まず相談をしてくださいというふうに伝えています。」

●薬の服用を巡って

「それとご家族様には、薬を飲む飲まないを巡って、ご本人さまと喧嘩になってしまうこともあるんです。ご本人様が、調子が良いときは飲まない、そういう気持ちに、誰でも、私達もなりますよね。しかし統合失調症の薬は、高血圧の薬や糖尿病の薬と同じように、今のところは、毎日規則的に使っていかなければならないです。しかし、どこか体が痛くなるとか、そういう病状は出るわけではありませんし、ご本人にとって苦しかった幻聴がなくなってしまうと、ご本人もお薬をついつい忘れてしまったり、飲むのを嫌がったりすることがあります。そういうときにご家族様は、また入院になっちゃったら大変だと、あるいは先生から飲みなさいと言われているから守らせなきゃいけないという気持ちで、『飲まなきゃだめでしょ』とか『飲みなさい』と言うと、ご本人は余計反発してお薬を飲まなくなったり、ご家族との関係が険悪になったりしてしまうんですね。

私たち医療者は、当事者の方、患者さんとご家族に仲良くなってもらいたいんです。この病気をもとにしてご家族との仲が分断されてしまったり険悪になってしまって、双方が悲しい思いをして入院するということがほとんどです。お薬を飲む飲まないを巡って、ご家族との仲が悪くなってしまうことは、医療者にとって大変つらいことですし、もちろんご本人、ご家族にとってもつらいことになります。

それを防ぐために、お薬を飲まなくても治療が継続できる持効性注射剤というものがあるんです。一回注射をすれば、2週間ないしは4週間効果が持続するという筋肉注射のお薬もあります。現在私たちが使う注射剤は、当事者の方たちが、うまくご家庭での生活を続けていく、あるいは仕事とかみんなと良い交流を持てる生活を維持していくために必要な良い方法の1つだというふうに考えています。」

●訪問支援を受けてみる

「見ず知らずの他人を自分の家の敷居に上げるということに、非常に抵抗のあるご家族、いらっしゃいます。家の恥だと思われているご家族様は、まだまだたくさんいらっしゃいますので、そういった地域のご事情とかも十分ご家族様から教えてもらいながら、じゃあ、どんな手がありますかと、例えば病院という名前の入った車では行かないようにするとか、ちょっと離れたところに(車を)置いて訪問するとか、あるいはピンポン押すときに、何々病院の者ですとか言わないで自分の名前を告げて入るとか…。

些細なことですけれども、そういった地域で、今までもこれからも生きていかなくてはいけないご家族様とご本人の気持ちに即した介入をしなければ、と思います。」

●睡眠を確保する

「最後に、病状の自己管理という点では、睡眠が一番分かりやすいバロメーターになりますから、規則正しい睡眠を確保する。あるいは睡眠がちょっと悪くなったら要注意のサインとして、早めに医療者のほうに伝えていただく。あるいはご本人にも、睡眠時間は削らないような生活を工夫してもらう、その点は大切にしていただきたいと思います。」

<<  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  >>