「それはね、一番最初に入院した千葉の病院で、そこの精神科の先生、面白い先生でね。精神科の患者だったら、入院するまでの調子とかいろんなことを聞くでしょ、本人から。ところが、私には全然聞かなかったですね。たぶん親戚の者、おじさんやおばさんから話を聞いているんだろうと思うし、それから、東京の、最初の先生からも話を聞いているんだろうと思うんですけども、脳外科の先生でしたけど、千葉での担当の先生が、『辰村さん、あなた一体なんでこんなところにいると思うか』と言われたんです。それで私、ちょっとこう、いろいろ話しながらね、カルテを見たんですよね。で、そのカルテにね、『シゾフレニー(Schizophrenie)』とドイツ語で書いてあったんですよ。それで、私、スペルを覚えましてね、病名のところ。ドイツ語が第二外国語だったので、辞書を繰って調べたんです。そしたら『精神分裂病』と出ていたので、『先生、私、精神分裂病らしいですね』と言ったら、『ああ、俺のカルテ見たか』と笑ってね。
ああしろとかこうしろとか、そういうことを言う先生じゃなくて、今日から君、電気ショックをやるよ。あんまりやるとぼけるから、10回ぐらいにしといてやるよ、君、学生なんだからなって、そういう調子で。それから、インシュリンショックもね、10回ぐらいやられましたけども。そういう指示は出しても、あとは直接現場には出て来ない先生でした。そういうわけで、自分が精神分裂病だということが分かったんです。先生は、病名なんか教えてくれないですからね。」
「ショックでしたね。『ああ、俺、気違いなんだ』って。それでね、最初の入院した病院で、横にいたおじさんがね、『お若いの、あんたここをどこだと思うか』って、入院したばかりの頃、私に聞いたんですね。で、なんかここは病院みたいですね、きれいな良いところですねって言ったら、『あんたね、ここは精神病院と言って、地獄の一丁目なんだよ、二丁目はないんだよ。一度、この病院に入ったら、どんなに金持ちでも、どんなに偉い人でも、どんなに美しい女の人でも、その人の将来は真っ暗闇だよ』と言われたんです。
その時、私ね、『あ、そうかそうか、俺、精神病の患者なんだ』って、それはショックでしたね。だけど、もうこれはしょうがない、先生にお任せするよりしょうがないと思いました。で、『あなたをこんな病院に入れちゃって悪かったわね』って、おばさんに謝られましたけども。でも、今から考えれば、あれで入院させてもらえなかったら、何をやっていたか分かんないですね。たぶん、その忘れられない女性のところへ、また行ったと思うんですよ。だから入院させてくれて良かったと思います。」