「今は辛いかもしれないですけども、越えられないハードルは潜(くぐ)ってしまっていいよというようなメッセージがあるのです。自分の目の前にハードルがきた時にそれをジャンプして飛び越えようとか乗り越えようと考えるのではなくて、このハードルはちょっと自分には高くて、飛べそうじゃないなぁと思ったら、ちょっと横になって寝て、そのハードルが自分の頭の上を通り過ぎていくのを待つというような対処の仕方もあっていいのではないかなぁと思っています。
あとは、人間というのは、『負けたら終わり』なのではなくて、『辞めたら終わりなのだよ』という言葉があるのです。私は何回も負けたなとは思うのですね。挫折は何回も経験しているのですけれども、しばらくはくたばっているのですがまた起き上がってやっていけば、それは本当の終わりではない。起き上がるということを辞めてしまった時が終わりなのだと自分では思っているので、失敗を恐れずに、いろんなことにチャレンジしていっていただければなぁと思います。」
「私が思ったのは、やっぱり気持ちの持ち方が、精神病の回復には大きな要になっていると思います。“リフレイミング”と言って、物事を肯定的に捉え直すという意味なのですけれども、1つの出来事というのは、良いとか悪いとかということはなくて、良い面もあれば悪い側面もあるということを、いつも頭の中においていただいて、気持ちを前向きにもっていくということですね。
そのために、私がやっていたことは、その日にあった良かったことやはじめて体験したことだけを日記に毎日書いていくということ。それを365日続ければ、自然にリフレイミングができます。どうしてもネガテイブに、悪い方向に考えてしまう自分の悪い考え方の癖みたいなものを直していかれるということは、自分1人でもできる簡単でお勧めの方法です。
本の中に、生死(を左右する)の病の方に対しても、有効な手立てがたくさん書いてあります。まぁ、自己実現するといっても、健常者の方のように、大成功するというようなことはなかなか難しいとは思うのですが、自分のできる範囲内で、自分のポテンシャルを最大に発揮して、何かやりたいことをやっていくということは、たとえ心の病気があったとしても、どんな方にとっても可能なことだと私は思います。
私の場合は、どちらかというと病気になったが故に本も出せたという部分があると思うのですね。平凡な主婦であれば、書きたいと思う内容もなかったでしょうし、おそらく主婦業だけやって、平凡に一生を終えたと思うのです。病気の前にしていた仕事は、塾の英語の講師だったのですが、今は逆にその病を得たがために、職業リハビリテーションセンターの講師の仕事をしていますので、今までの自分には考えられなかった、潜在的な可能性みたいなものが、かえって出てきて、以前は思いもよらなかったような仕事を、今はしているという感じがします。」
「やはり、こういう病気に対するステイグマ(偏見)がすごく根強く今でも残っているので、誰かがこの活動をしなくてはならないという使命感のようなものが、自分の内側から、ふつふつと出てきて、かつては苦手だったような仕事も今はやっているというのが、現状だと思います。
やはり、『当事者が声をあげていかないことには、他の誰が一体やってくれるんや』ということになりますので、ある程度回復した方が、こういう活動を地道にしていくことが、差別・偏見の解消につながっていくのではないかなと思います。」