7テーラーメード医療の可能性
「2000年以降、分子標的治療薬が登場してきた背景には、『人はなぜがんになるのか』『がんの増殖を抑えるためにはどうしたらよいのか』というがんのメカニズムやがん遺伝子情報がわかってきたことがあります。
このような遺伝子の研究が進むと、事前に患者さんの遺伝子を検査することで薬が効くかあるいは効かないか、どのくらいの量を投与したらよいのかということがわかるようになってきます。
たとえば大腸がんの領域でもセツキシマブという薬は患者さんのK-ras遺伝子に変異があると効かないことがわかっています。このような患者さんにセツキシマブを投与すると、効果がなくても副作用は発現します。患者さんに負担をかけるとともに、他の治療法の機会を奪ってしまうことにもなりかねません。そのためセツキシマブは投与の前にK-ras遺伝子に変異がないことを確認してから投与します。この検査は現在では保険診療で受けることが可能になりました。
イリノテカンではUGT1A1という遺伝子検索をすることで、下痢などの副作用が起こりやすいかどうか予測することが可能になりました。このような人には、投与量を調整することで、副作用の重篤化を回避することができます。
手術で切除したがん細胞を使って抗がん剤の感受性を調べる研究も進んでいます。この研究が進むと、将来再発したときに効果のある抗がん剤を選択できるようになる可能性があります。
今までは抗がん剤治療はどの患者さんに対しても体表面積や体重あたり決まった量から投与していましたが、これからは遺伝子を診断し個別に薬剤を選択するテーラーメイド医療が現実のものとなるかもしれません。」