1大腸がんの症状とは
「われわれの経験では、大腸がんの手術を受けた患者さんの約3割の方は無症状です。一方、7割の方は症状があり、その症状からがんが見つかって手術を受けています。症状のないうちにがんを見つけて治療を受けることが重要で、そのためには便潜血検査による検診を積極的に受けていただくことが大事になります。
実際には、『便が出にくい』『便が細切れ(兎糞状)』『便の表面に血がついている』『粘液(白っぽい透明、ゼリー状)が便に付着している』という症状から大腸がんが見つかることが多いです。
鮮血(真っ赤な血)が出てきたときには痔である可能性が高いのですが、大腸がんのなかでも直腸がんの場合は同じような症状が出ることがあるため、注意が必要です。」
●大腸がんの場所による症状の違い
「症状は、大腸がんのある場所によって違ってきます(
図1)。
左側の大腸で発生するがんは、直腸がん、S状結腸がんが一般的に多く、便が固まっている状態のため、便ががんにこすれて血が出るという症状になります。
右側の大腸はまだ便の形になっていないことが多く、便がおかゆ状で非常にゆるいため、がんがこすれるということはあまりなく、血が出ることもあまりありません。一般的には、がんがある程度大きくなってきて腸が狭窄して、お腹の表面からしこりを触れるとか、あるいは痛みとして症状が出ることが多いです。
右側の大腸がんの場合には、一般的には便秘と下痢を繰り返すような症状が多いと思います。しこり自体が大きくなってこないと、なかなか症状が出てこないのが特徴ですので、がん自体がある程度大きくなって発見されることが多いです。逆に言うと無症状で(便潜血検査がきっかけで)発見されることが多いので、検診を積極的に受けていただくことが非常に大事になります。」
■Q & A
「大腸は1.5〜2mという非常に長い管です。がんができやすい場所は、S状結腸と直腸という身体の左側から肛門に近い部分で、実際の内訳は直腸がんが35%、S状結腸がんが34%、上行結腸がん11%、横行結腸がん9%、盲腸がん6%、下行結腸がん5%と、直腸とS状結腸で約7割を占めるという特徴があります(
図2)。
つまり、肛門から約30cm以内の直腸とS状結腸の部分に(がんの発生が)集中するということになります。便がこすれるようなところを中心としてがんができやすい状態になっていますから、自覚症状としては、便が細くなってきたり、便の表面に血がついたり、紙で拭いたときに血がつくという症状はこれに一致しています。
直腸とS状結腸に多くの大腸がんが発生するというのは世界共通の傾向です。日本では大腸全部を調べる検査を二次検診で行っていますが、欧米では病気のスクリーニングの段階で、直腸あるいはS状結腸を中心とした内視鏡検査も行われています。」
「そうではないですね。おそらく便が(腸のなかで)貯留するということがひとつの原因になっています。大腸がんがなぜできるかですが、食生活の欧米化つまり高脂肪食によって、便中の脂肪酸が増え、便が貯留しやすい場所でそれが発がんに関係している、がん化が起きてくると言われています。直腸、S状結腸にがんの発生頻度が高いということとよく一致していると思います。」
「そうですね。やはり便秘はひとつ大きな問題になります。やはり食物繊維の多い食事をとることによって排便を促してあげることは、非常に大事です。ただそれが直接がん化を完全に予防するということではありません。やはりがんの発生についてはまだ不明な点もあります。」
「加齢・高齢化と発がんは関係しています。特に年をとるということは、大腸がんに限らず、がんの大きな危険因子のひとつになります。
実際に年齢別の大腸がんの罹患率を見ると、40歳を超えたあたりから増加し始めて、50歳を超えるとがんの高リスク群に入り、60歳代、70歳代は非常に高くなります。ですから大腸がんに関しては、40歳を超えたら大腸がん年齢と考えてもよいかもしれません(図3)。
地域や会社等では、主に40歳以上の方を対象に検診を行っていますので、こういう機会をうまく利用してきちんと検診を受けて、早期発見を心がけることは非常に大事だと思います。
一方、30歳代の若年層は、大腸がんにかかる頻度は非常に低いわけですが、ゼロではありません。当然30歳代の方で大腸がんになる方はいらっしゃいます。場合によっては20歳代でもいらっしゃるわけです。ですから便秘の傾向が強かったり、便が細くなったり、あるいは便の表面に血がついたりという大腸がん特有の症状があり、何か変だなと気になる症状があれば、年齢とは関係なく一度きちんとした病院で検査を受けることをお勧めします。」