がんと向き合う

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臼井 和子さん
(うすい・かずこ)
声楽家
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日本の音大声楽科を卒業後、1979年フィレンツェに留学、以後イタリアに在住。2005年、日本に一時帰国中に腹痛・発熱で病院を受診。S 状結腸がんが見つかり手術を受け、その後イタリアで術後補助化学療法を受ける。副作用に苦しむが家族やがん専門心理学者の支えもあり、半年間の抗がん剤治療を終える。現在手術から4年が経過し、チャリティ・コンサートなどを積極的に行っている。
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4ある心理学者との出会い

「ご近所に、私よりも確か1年前に早期発見で膵臓がんとわかって手術された方がいました。私が日本でがんになったと聞かれて非常に心配されて、彼女も化学療法を受けていたのですが、がん患者のためのアソシエーション(協会)にがん患者専門の心理学者がいるということで、彼女の家にちょうど来ていた心理学者を私の所に連れてきてくださったのです。

その先生とはじめてそこで会って話を少し聞いてもらうと、30分ぐらいがあっという間に経ってしまい、その先生のカウンセラーを受けてみたいと思いました。すると『家だと人がいて、あなたも思っていることが十分に言えないと思うから、私のオフィスに来てください』と言われて、連絡をすると、2〜3日後にいらっしゃいと言われて、その先生のところに話しに行きました。

自分の胸の中で思っていることを先生に話すことができて、ものすごく希望がもてました。それで化学療法を最後まで全うできて、私にとってはとても大事なことでした。一旦こういう大きな病気にかかってしまうと、やはり全てのことが自分の手から離れていってしまう。日本に帰るまでは毎日たくさんの仕事をしていたし、自分でまだいろいろプロジェクトもあったのが、病気になったことで全部なくなっていってしまう。それがやはり自分にも信じられないことでしたが、先生と話したことによって、それがそうではないということを彼女が話してくれて、希望がもてました。『自分はじゃあできるのかな』と。病人だから家にいて治療だけしかできないと思っていたのが、(その考え方が)変わったというのは大きかったです。彼女は『普通に生活していればいい』ということをしっかりと教えてくれたので、仕事とかなにかも、やる気になればやれるんだという希望がもてたのは、いちばん大きかったと思います。」

●カウンセリングの内容

「彼女(先生)のほうからはたくさんのお話はされないのですよね。『今日どんなことがあったの?』とか、『化学療法はどう?』という簡単な質問をまずされます。そういう話をしていて『じゃ、仕事は?』とか。それでだんだん自分から話したくなるのです。あと自分が困っていることもどんどん自分からなんとなく言いたくなるのですよね。やはりその先生を信頼しているから言えるのだと思うのですが、先生は話をずっと『んーん・・・』と聞いていて、ときどきそれに対してのアドバイスをポロッポロッと言う、そういう感じのカウンセラーです。

10月20日から私は日本に来る予定がありましたが、この化学療法を受けているから『もう自分は行けないんだ・・』とすごくショックでした。せっかく何年も自分でプロジェクトしたことが、『この病気によって全部パーになってしまった』とその心理学者に言うと、先生は『なぜ(日本に)行かないの?』と言うのです。それで私が『えっ?でも私、病気だから』と言うと、『あなた病気じゃないわよ。だって手術うまくいったじゃない』と言うので、『でも、化学療法を受けているから』と言うと、『でも化学療法は防備のためにやっているのよ。だから行けるわよ』と言うのです。私は『本当に行けるのかしら』と言うと、『私は行けると思うわ。あなたのついているがんの先生にちゃんとお話ししなさい。先生がだめだと言ったらやめればいいじゃない。いいと言ったら行きなさい』と言うので、それで希望が出てきました。

主人に言うと主人は大反対だったのですが、主人の言うことよりも私は『がんの先生の言うことを聞いてみたい』とはっきりとそこで主張したのです。それでアポイントをすぐに取って、がんの先生に話すと、『行っていいわよ。ちゃんと薬だけ飲みなさいね。次の化学療法、いつだったかしら』と先生が日程を見て、『あぁ、そうね。化学療法を受けた3日後だからちょっと飛行機に乗るのもたいへんだけど、できるわね』と言うから『はい』と言うと、『じゃ、行っていいわ』とおっしゃったので、主人は大反対だったのですが、もう行こうと私は決めたのです。

日本にすぐに電話をして『私、帰れることになりました』と言うと、日本側は『えっ、そんな体で大丈夫?』と言うのですが、『でも、帰ります』と言って決めました。それがやはり自分にとってなんというのか、いい効果をもたらしました。

化学療法をして3日後の出発だったので、確かに飛行機のなかではすごくしんどかったのですが、横になることもできたのでずっと寝ていきました。日本では3日間ぐらい休養をして、それから仕事を始めたのですが、人前に立てば周りの人は私が病人だなんてことは絶対に知らないので、自分は普通の人間だという気持ちで、1週間ぐらい毎日仕事をしました。全部やり遂げられたので、『自分は大丈夫だ』という自信がそのときにすごくできて、その心理学者とがんの先生に感謝しました。

無事に日本からイタリアに帰ってきて、第3クールがすぐに待っていましたが、もうそれからはどんなにつらくてもがんばって治療を受けるのと、どんなにつらくても自分で一生懸命なるべく外に出て仕事をして、普通に暮らしていこうと決心しました。『自分は病気じゃないんだ』ということを言い聞かせるように、自分の中でもそう思うようにしました。」