「ICU(集中治療室)から帰ってきて病室に戻って2日目の夜、全然眠れなくて、ベッドで起きるにしてもその音とかが隣の方に申し訳ないなと思ったら、もう本当に眠れなくなって、なんかおかしくなりそうになったんですよ。でも、お腹は術後2日目で痛いので(電動でベッドを)ギーっと起こさなければ起きられないし、だんだん頭がグラグラグラして、あぁどうしようどうしようと思って。
そのときにちょうど巡回していた若い看護師さんが来たので、顔を見て『ナースステーションに行っていい?』って聞いたんですね。そしたらもう間髪いれずに『いいよ』って言われて。『ちょっと待っててください』と言って戻って、もうひとりの看護師さんと一緒に来てベッドごとゴロゴロ押してナースステーションの隣の空いてる部屋に連れて行ってくれました。『わーすごい』って思いましたね。もしあれで『何言ってるんですか』と言われていたら、私はもうおかしくなっていたかもと思うと、あのときは本当にすごく救われました。
だから受け止めてもらえるというのはありがたいなぁ・・・と思いましたね。しかも本当に21、2歳ぐらいの若い看護師さんで、歳は関係ないのかもしれないですけど、すごくびっくりしました。あの『いいよ』って言われた一言に、いまだに感謝しています。
誰でもそうですけど、他の人と一緒の空間でいるという経験があまりないので、それが(入院中は)すごく窮屈というか、つらかったですね。」
「がんと向き合う中で落ち込むというと、お家で療養中のときでしょうか。いきなり具合が悪くなるんですね。熱が出たり、体がだるくて動けなくなったりして、元気なときと具合悪くなるときの落差があって、それがいきなりくるんです。体が元気じゃないと気持ちもすとんと落ちちゃうのが、やっぱりすごくたいへんでした。具合が悪くなって寝ていて、天井がお友達になって、母として自分は何もできない、お家のこともできない、子供たちのこともできないというのがすごくつらいことでした。
(落ち込んだときは)とにかくひたすら天井だけ見つめていました。横になって、『なにやってんだろー・・』とか思いながら。だから本当に体と心は一体ですね。暫くしてちょっと元気になると、またガタガタ動くんですけど、動くとまた具合が悪くなってというその繰り返し。体も気持ちも波があり、その繰り返しが結構しんどいのはありましたね。小康状態がいいところで保てればいいんですけれども。」
「たとえば手術をして1、2ヵ月経つと『自分はすごく元気になる』と思っちゃうんですが、何かの本に『手術したあとは3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月というスパンで徐々に体力も回復していく』とありました。でもそういうことも言われないから、『手術したらすぐ元気になる』と思っている自分と『元気じゃない』自分がいて、そのギャップが埋められない。はじめから、『(回復には)時間かかりますよ。3ヵ月、半年経ったらもうちょっと元気になりますよ』と誰かが言ってくれれば、『あ、そんなもんなんだ。今自分は3ヵ月だからまだこれぐらいだけど、この先もうちょっと元気になるんだ』と思えたりするんですけど。当時はまったくそういう情報もありませんでした。」