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+ ストーマと向き合う
林 敏孝さん
林 敏孝さん
(はやし・としたか)
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1948年熊本生まれ。2002年血尿があり病院を受診、右腎臓と尿管の間に腫瘍がみつかり、手術で摘出。2005年3月福岡西方沖地震以後、仕事で過労が続き、翌月突然起き上がれなくなり病院へ搬送。膀胱内腫瘍を切除、ストーマ(人工膀胱)を造設。その後、腸ヘルニアで入退院を繰り返すも、現在は病院のボランティアとして患者の相談相手、看護師のストーマケア指導に奔走する。
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3治療費のこと

「(治療費について)病院のソーシャルワーカーの方から話があって、『大丈夫ですよ。こっちのほうで何とかしますから』という話でした。退院時に支払いのこと言うと、『いや、いいですよ』と身体障害者の手帳をくれたのです。そういえば1度だけ写真を病室で撮ったのですよね。なんの写真かなと思ったら、その身体障害者手帳に貼る写真だったのです。それで病院のソーシャルワーカーが市と話をして、生活保護と身体障害者の手続きをしてくれて、退院するときには治療費がそれで全部ちゃらになりました。7ヵ月間ですから、何百万円かかかりました。それは助かりましたよね。まさか病院でやってくれているとは。あとから『ありがたいなぁ・・・』と思いました。そのときはじめて病院のソーシャルワーカーの役目というのが私にもわかったのです。」

●病院への恩返し

「今、やはり恩返しということで、病院のボランティアをしています。ひとつは看護師の指導。(看護師の方は)学校ではストーマに関して習ってきているのですが、本物を見たことがない。それで患者さんが来たときに、どうしたらよいのかがよくわからない。WOC(創傷・オストミー・失禁看護専門)ナースという認定看護師が今のところ病院に1人なので、指導まで手が回らないのです。だから看護師の指導をしてほしいということで、泌尿器科の方だけ指導をしています。」

●ピアカウンセラーとして患者の相談にのる

「(病院のボランティアとして)もうひとつは、これからストーマの手術を受ける患者さんの指導です。ストーマになるということでものすごく心配しているのですけど、私の経験から『まあ、なるものはなるのだから』、あとは『自分でフォローすることのほうが大事だよ』と伝えています。そのときに装具メーカーのガイドブックを渡してストーマケアのポイントを説明したり、また病院内で会ったときに話しかけたりしています。

今度、『(ストーマで)皮膚炎をおこして再入院する方がおられるので』と病院のほうから依頼があり、ピアカウンセラーという方法で患者さんの相談にのっています。」

ピアカウンセラー:同じ悩みや障害をもつ仲間の相談にのり、悩みや障害をその人自身で克服できるように援助する人。(出典:大辞泉)

意外とメンタルの弱い人は、病人の中に多いです。私の入院中でも看護師長から『悪いけどあの部屋に行って』と私のベッドが移動するのです。なぜかな?と思うと、横に来る患者さんは意思が弱く、『手術するのがものすごくいやだいやだ』と言う方でした。そういう人たちにゆっくりと話してあげると、だんだんと勇気が出るというのか、『じゃあ(手術を)やりましょう』と。結構、そんなことがあります。

まず、『何か心配あります?』と言って、ずっと話を聞くのです。その人の話を聞いたうえでポイントを見つけます。そのポイントをゆっくりとこちらが話していきます。最終的に『あんたに私の気持ちわからんでしょ』と言われたら、『そうですか?』と言って、遠山金四郎じゃないですけど、(私のストーマの)お腹を見せて『あなたの気持ちはわかりますよ』と言うと、もうびっくりして一瞬で納得しますよ。それはもう4〜5回やりました。

今でもときどき、(ストーマ)手術の話が決まっているけどなかなか本人がサインしないという方がいます。家族も本人に一生懸命言うけど、サインしない。看護師が言ってもしない。先生が言ってもしない。そうすると師長から、『ちょっと行って話してくれない?』と言われる。私が行って話すと30分ぐらいで書いてくれるのです。」

Q.なぜ林さんの言葉に患者さんは納得されるのでしょうか?

「何でしょうね。何か親身というか、その患者の立場になって話してあげるからじゃないんですか。怪我をした人やうつ病の人もそうですが、自分の心の中はわからんだろう、自分の体のことはわからんだろうとよく言われます。ところがこっちは、それを経験したうえのことだから、どんどんどんどん返事ができるのですよ。普通、先生たちも決まりごとしか話されないし、家族は『大丈夫よ、先生に任しておけば』と必ず言いますよね。それでも患者はやっぱり安心できないんです。ところが経験した患者が話してやると、意外と通じるのです。最後に、自分は何を話したかなと思うときがありますが、『ありがとうございます』と言って納得しますよ。」