「治療に専念するために、(大学は)約一年間休学の形を取らせてもらいました。本当は実験をしたかったのですが、『来るな。休んでろ』と(先生には)言われたので、論文や本をときどき読んだりはしていましたが、実際の実験等はしていません。
しかし、抗がん剤治療が終わって退院できたからといって、すぐに社会復帰できるわけではありませんでした。私はすぐに社会復帰する気満々だったのですが、周りにものすごく止められて、『もうしばらく休んでろ』と言われて、何となく『あれ?私元気になったのか病人なのかわからないな・・・』という期間が1ヵ月くらいありました。」
「抗がん剤の治療中は、それまでに比べると格段に運動もしないですし、赤血球や白血球の値もものすごく下がっているので、大袈裟ではなく30歩歩くと息が上がるぐらいに、体力も精神力も何もかもが落ちていました。そこから少しずつ元の生活に戻るために、『食う寝る遊ぶ』ではないですが、よく食べてなるべく動いて、疲れたら寝るという獣のような生活を無理矢理2週間ぐらいして、少しずつ戻していきました。
私は趣味が格闘技のテコンドーなのですが、抗がん剤が終わってから1ヵ月後には試合に復帰しました。その試合で優勝してそのあとは負けなしで全国大会制覇まで行き、3年に1度開かれる世界大会(2007年)で日本代表として出場して、団体戦で金メダルをもらいました。」
「別に私は何か悪いことをして病気になったわけではないので、何か『やばい』と言われるようなことをして病気になったのなら、『はー、やっちゃった・・』と思いますが、特にそこまで悪いことをしていた憶えもないので、別に自分に恥じる必要はないなと思い、この人に言っても大丈夫だなと思ったらほとんどの人に病気のことは言っています。仲間内、身内はほぼ全員知っている状態です。
してはいけないことをしているといえばしています。たとえば検査があった日は血を結構抜かれるので、そのあとで(格闘技の)練習に行ったり実験を夜遅くまでやっていたりすると、やはりフラーっとするときがあります。その時は『ごめん、今日は組み手は無理』とか『ごめん、今日は徹夜での実験は無理』と(言います)。あと時折、差し込むように患部周辺がいまだに痛くなったりはしますから、そういうときに『ちょっと無理』と言うことはありますね。
病気のことを言わないで、何となく『休む』と言うと、わがままとして取られてしまうところが、病気のことを言って『ごめん、これは無理。休む』と言ってしまったほうが向こうも理由がハッキリしているので対処のしようがあるみたいです。さすがに(病気のことを)言うとびっくりはされますが、だからといって別に今すぐ死ぬわけでもないし、こう悲観的になって鬱なわけでもないので、説明すると『あ、そうなんだ。頑張れよ』で終わります。」