がんと向き合う

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稲守 朋子さん
稲守 朋子さん
(いなもり・ともこ)
静岡県立大学大学院生活健康科学博士課程在学中。24歳(2004年)のとき、極度の腹痛により緊急入院、片側の卵巣を摘出し、卵巣がんと診断される。手術後、1年間の抗がん剤治療を経て、現在は経過観察中。趣味のテコンドー(格闘技)を再開し、2007年には世界選手権大会に日本代表の一員として出場、女子団体戦で金メダルを獲得した。
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6病気になってわかったこと

「細かいことを気にしない、“病は気から”ということです。気にし始めると本当きりがないですし、情報は氾濫しているので、“これさえやれば”と思ってやってしまうと危険だということを自分でも思いました。かといって『どうしよう、どうしよう』とずーっと悶々として、『何がいいのかわからないよ。どうしよう、どうしよう』と言っていても結局解決にはならないので、日々楽しく、なるべく自分にとって重圧にならないように“楽しく生きていく”のがいちばんじゃないの、というところに落ち着きました。今はそれしか考えていないです。

かといって、刹那的に生きるのも問題で、せっかく治療して治してもらった身ですから、刹那的に生きるのもどうかなと思います。ですからあまり無茶をしすぎないとか、ごはんはバランスよく食べましょうとか、本当にあたり前のことをあたり前にやるようにしています。

ごはんが本当に一時期食べられなかったりとか、もう全て吐いてしまう、においがするだけで見たくもないとか(を経験して)、あたり前のことがあたり前にできて、あたり前に生活できることがどれだけ幸せかというのは前よりもすごく感じます。バランスももちろん重要なのですが、普通に生活していることがどれだけありがたくて恵まれているかということはよく考えます。」

●病気になって困ったこと

「がんになると必ず誰もが考えると思うのですが、『なぜ自分ががんに?』というのは、一度か二度は考えました。しかし結局考えてもがんになっちゃったものはなっちゃっているので、困ったときはもう考えないようにしていました。あとは自由がないのがやはり困りました。外に出たいと思っても治療中だということもあり、白血球の値が低いので感染症を起こしてしまいます。感染症を起こすと治療が遅れて、次の治療が遅れればそれだけまたがん細胞がムクムクしてくるかもしれない。自由がないのはやはりイライラしました。あとは、ごはんを食べられないとか、普通に生活できないこと、病院のなかでも普通の人とは少し違った生活にどうしても気分的になってしまうのは、少し困ったと言えば困ったところだと思います。」

●何も失っていない

「心の支えにして常にそばに置いていたのは、友達や仲間の写真とか、あと送ってきてくれた色紙や手紙です。それを入院セットの中に入れていつもそばに置いていたのです。でも夜ひとりで寝られないときにパチンと電気をつけてひたすらニヤニヤしながらそれらを見返すわけにもいかないので、いつも考えていたのは、『病気になっても何にも失ってないな』ということでした。友達がそれで離れていったわけでもないですし、本当に危なくなったら多分しゃべることも立つこともできなくなるのでしょうが、痛くて立ちたくない、だるい、痛かったりだるかったりで立ちたくないことはありましたけど、別に、立って歩くための足を失ったわけでも手を失ったわけでも、何も見えなくなったわけでもないですし、『あ、なんだ。私、何もなくなってないじゃん。そのうちまた普通の生活に戻れるじゃん』ということばかりいつも考えていました。

ある意味で私は格闘技の人間なので、ある程度マゾな所もあり『これに耐えたら精神的に強くなれるかな』とか『修行、修行!』と思い込むようにしていました。あと、病気で入院しているからといって楽しいことや面白いことがないわけではないのです。普通に入院仲間としゃべっていれば、大笑いすることもありますし。辛い面ばかりみていると自分が世界でいちばん悲しい人に見えるので、毎日楽しいって思っているのがいちばんいいのかなと。それがいちばんよかったかなと思います。明るく楽しい闘病生活でした。」

●手術から4年たって

「まず抗がん剤が終わった時点では、月に1回血液検査、2、3ヵ月に1回CTと、ほぼ毎月主治医のところに行っていたのですが、2年半〜3年目ぐらいから『少し落ち着いているから、2ヵ月か3ヵ月に1回ぐらいにしようか』ということで、何か特別な事情がない限り2〜3ヵ月に1回、主治医と私の予定が合うときに、検査をしてもらうという形を今取っています。

やはり女性特有のがんになり易いということで、胸のほうも半年に1回、3〜4ヵ月に1回、マンモグラフィも撮りますし、子宮のほうも調べます。だいたい全部チェックしています。」