統合失調症と向き合う

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福田正人さん
福田 正人さん
(ふくだ・まさと)
群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学
准教授
1983年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同大学講師を経て、1998年に群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学准教授(現職)に就任し、現在に至る。主な研究として、統合失調症を始めとする精神疾患の神経生理学・脳機能画像研究に従事している。編著・訳書に『精神疾患とNIRS−光トポグラフィー検査による脳機能イメージング』(中山書店)、『精神科の専門家をめざす』(星和書店)、『統合失調症の認知機能ハンドブック』(南江堂)、『もう少し知りたい統合失調症の薬と脳』(日本評論社)などがある。
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1統合失調症の診断法
Q.どのように行うのでしょうか

「統合失調症に限らず精神科の病気の診断というのは、基本的には症状と病歴でつけていくものなんですね。問診の中で、患者さんご自身がどんな症状を感じているのか。それから周りの方からご覧になるとどんな症状がありそうか、それがどんな経過をたどってきたのか、といったようなことをお聞きして、それに基づいて診断をつけるんですね。

そうお聞きになると、ちょっと意外に思われる場合があるかもしれないですけどね。と言いますのは、他の身体の病気には必ず検査というのがあるわけですね。何か血液検査をしてその値に基づいて診断をつけるとか、レントゲンを撮って診断をつけるとかがあるわけですけども、精神科の場合、今のところそういうものは残念ながらないんですね。脳の病気があって、そのせいで、例えば統合失調症と似た症状が出てくることがありますから、そうじゃないということを確認するために頭のCTとかの検査をすることがありますけれども、それ以外は、問診に基づくものなんですね。これは日本だけではなくて、世界どこでもそうなっています。

じゃあ、どうしてそうなのかと言いますと、難しいことなのですけどもすごく簡単に言いますと、脳の働きが複雑だからなんですね。血液検査のようなもので1つの数値に表すことができない。脳の働きが非常に複雑で、そういうことで統合失調症のような精神科の病気が起こってくるわけです。ですから検査としては難しいんですね。」

Q.統合失調症を診断するときの基準はあるのですか

「一応あります。“診断基準”という名前で呼んでいるのですけども、『こういう場合には、例えば統合失調症というように診断しましょう』というようなものです。世界的に使われているものとして、大きく2つあります。1つはWHO(世界保健機関)が作っていますICD(アイシィディ)、それからもう1つがアメリカの精神医学会が作っていますDSM(ディエスエム)というものです。いずれも、こういう症状があったらというようにいくつかの基準が決まっていまして、それに基づいて診断していくものなんですね。

日本の厚生労働省などは、WHOが作ったICDの基準をもとにしましょうということを言っています。アメリカの精神医学会が作っているDSMは、なんて言いますか、基準がより厳密と言いますか、『こういった場合に』ということがすごく厳しく決まっているんですね。それには、明確で良いという良い側面もあるんですけども、それでは不十分だという意見も結構多くあります。どうしてかと言いますと、1つは、患者さんの苦しみとかを捉えることができなくて、表面的に現れる症状だけで診断をつけてしまっているということがあります。それから個人差なども捉えにくい。あるいはそういうふうになる早期、早いところを捉えることができないとか、そういうことが治療の選択になかなか活かしていけないということがあります。ですから一応、一定の基準はあるんですけども、それだけに囚われるのではなくて、やはり専門家の経験も踏まえて、きちんと診断していくということが大事だろうと思います。」

ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:疾病及び関連保健問題の国際統計分類)〜現在は第10回改訂版(ICD-10)。死因や疾病の統計などに関する情報の国際的な比較や、医療機関における診療記録の管理などに活用される。
>> 厚生労働省:「疾病、傷害及び死因分類」のページへ
DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神障害の診断と統計の手引き)〜現在は第4版(DSM-W-TR)。ICDとは異なり、精神疾患のみの分類

Q.統合失調症の診断は難しいのでしょうか

「統合失調症の診断が、ごく簡単にできる場合、割と明らかにできる場合と非常に難しい場合があります。

難しい場合にいろいろな理由がありますけども、最初の頃は(統合失調症とは)違う症状が出ているという場合もあるんですね。うつ症状もそうですし、あるいは例えば対人恐怖的な症状が出るとかですね。最初の頃は、よくお聞きしても違う症状で始まる、だけどもだんだん経過を見ていく中で、幻覚や妄想が明らかになって統合失調症だと診断できる場合もあるんですね。ですからその場合には、一見すると違う病気から始まって統合失調症に発展したという形になります。統合失調症の幻覚や妄想じゃないところから始まって、しかしそっち(統合失調症)に発展していってしまう、脳の中のそういう過程がもしかしたらあるかもしれないですね。ですから、なるべく早い段階で、『今後、統合失調症に発展してしまうかもしれない』ということが捉えられますと、早期診断とか早期の治療に結びつくわけですよね。

そういった意味で、現在、症状に基づいて診断しているわけですけども、やはりどうしてもそこに検査ということを実現したいと思うわけです。まさに(検査を)発展させますと、予防ということも考えられるんですね。例えば糖尿病を例に取りますと、現在は、多くの場合には症状が出てから診断しているわけじゃないですよね。健康診断という形で血液検査を受ける。そうすると症状は全然ないけれども血糖値が高いというようなことが分かって、『じゃあ早くから治療に取り組みましょう、最初は体重を減らしましょう』とか、そういうことから始まっていくわけです。そういうことができるのは、検査があるからこそなんですね。

図1
図1
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ですけど、精神科の病気については、今のところ症状が出てからしか診断できませんから、本来の意味では、精神科の病気すべて治療が遅めになってしまっているかもしれないんですね。検査が実現できますと、そういったことを予測できる。もちろんそれがレッテルを貼るということになってはいけないですけども、そうじゃなくて、むしろ早期発見、早期治療のために有効に役立つ、生かすことができれば、糖尿病の例のように、重症化しないで、むしろ症状が出ないうちに治してしまうというようなことが可能になる時代がくるかもしれないですね(図1)。」

Q.統合失調症との診断が変わることはありますか

「そういう場合もあり得ます。(理由は)いろいろありまして、もちろん医者の腕が悪くて誤診しちゃうということもありますけども、1つは、一見統合失調症に似た症状でも、よくお聞きすると違う病気だということが診断できるんですけども、日常診療が忙しいものですから、なかなか時間が取れないと。そうしますと十分お話をお聞きする時間がない中で誤ってしまうということはあり得ます。

それからもう1つは、その時点では統合失調症と言っていい症状だったんですけども、経過の中で、今度は病気の症状自身が変わっていってしまうという場合があるんですね。例えば、最初は統合失調症のような症状で始まったけれども、そのあとは躁うつ病のような症状になっていってしまう場合があります。そういう場合には、やはり最初の段階で、症状としては統合失調症のようだったかもしれませんけれども、病気の仕組みとしては、ちょっと違っていたかもしれないですね。今のところは、それがどうしてかということは分からないですけれども、今後、いろんな研究が進んでいくと、場合によっては、症状としては統合失調症であっても(病気自体は)違うということが分かってくるということがあるかもしれません。」

Q.長期に見ていくと分かることは?

「はっきりと統合失調症であっても、やはり長期に拝見するといろんな個性と言いますか、病気の個性もあるでしょうし、その方の個性もあるでしょうし、特徴があることが分かってくるんですね。例えば、病気の悪くなり方が毎回毎回同じパターンであるとか、あるいは治っていく時間経過もだいたい同じ時間経過があるとか、そういうことがお一人お一人違います。診断は変わらなくても、治療の特徴、経過の特徴を知ることができるという(ことは)とても大事なこと。その意味でも、やはり専門家と良いチームを作って、その方の病気の特徴というのを捉えていくということが、治療上、とっても大事になると思います。」

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