統合失調症と向き合う

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福田正人さん
福田 正人さん
(ふくだ・まさと)
群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学
准教授
1983年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同大学講師を経て、1998年に群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学准教授(現職)に就任し、現在に至る。主な研究として、統合失調症を始めとする精神疾患の神経生理学・脳機能画像研究に従事している。編著・訳書に『精神疾患とNIRS−光トポグラフィー検査による脳機能イメージング』(中山書店)、『精神科の専門家をめざす』(星和書店)、『統合失調症の認知機能ハンドブック』(南江堂)、『もう少し知りたい統合失調症の薬と脳』(日本評論社)などがある。
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7心理社会的療法について
Q.なぜ心理社会的療法が大切なのですか

「統合失調症の治療は、今のお話のように薬物療法と心理社会的療法(表3)、これが車の両輪という感じなんですね。そのどちらかだけということではなく、両方とも大事なんですね。ですから心理社会的療法というのも、薬物療法と組み合わせて使うことが大事になってきます。

具体的にどんなことをするかと言いますと、1つは病気のことをよく知ろうということが大事です。なかなか統合失調症という病気のことは分かりにくいですから、病気のことを知る。それを専門用語では“心理教育”と言っています。それからいろいろなこと、社会生活で苦手なことが起こってきた場合には、SST(Social Skill Training)と言って、(社会)生活技能訓練とか訳しますけども、いろんな生活の中で役立つスキルを身につけていく、トレーニングしていくということがあります。さらに、例えば人間関係が苦手になってしまったような場合には、デイケアと言いまして、人間関係を練習する場もあります。デイケアは、いろんな場で行われますけども、いろんな患者さんが集まって、そこで対人関係を練習する。患者さんによっては人に接すること自身苦手になってしまっている場合がありますから、人に接したりとか会話をしたりとか。その中で、例えばいろんな目標に向かっていろんな取り組みをしていくことによって社会復帰をはかっていく1つのものだと考えて良いと思います。

さらに物事を作業する、仕事をするということが苦手になってしまった場合には、作業所と言いまして、そういったことをトレーニングしながら、しかも社会復帰をはかるという場があります。個々の患者さんのニーズに合わせて、いろんなものを組み合わせて使っていくことが大事になるんですね。」

表3. 心理社会的療法
・病気について知る → 心理教育
・社会生活が送れるようにする → SST(Social Skill Training:社会生活技能訓練)
・人間関係を練習する → デイケア
・物事を作業することをトレーニングする → 作業所
SST(Social Skill Training:社会生活技能訓練):日常生活を送る上で必要なスキル、中でも、挨拶や交渉などさまざまな対人技能に関してのスキル獲得を目的とした援助のことである。
デイケア:地域の保健所や精神保健福祉センター、医療機関などで、レクリエーションやSST(社会生活技能訓練)などを組み合わせることで、社会復帰の足がかりとする取り組み。

Q.心理社会的療法は効果があるのですか

「統合失調症で脳の働きが悪くなっていると聞きますと、そういうことをしても治らないんじゃないかというふうなお考えがあるかもしれませんけども、そこはちょっと違うんですね。ちょっとお考えいただくと、例えば多くの方が緊張したときに、自分で緊張を取るということができますよね。実は、緊張を感じるのは脳なんですね。脳の働きで緊張してドキドキしちゃうということがあるわけです。ですけども、ご自身で、例えば深呼吸したりとか、あるいはいろんな工夫をして緊張を取ることができます。それはどういうことかと言いますと、ご自身の工夫で自分自身の脳の働きを変えることができるんですね。

それと同じようにして、統合失調症の場合も、脳の働きが少し悪くなっている場合でも、それはもう治らないのかとか、あるいは薬じゃなきゃ改善できないのかというとそれだけではありませんで、今お話したような心理社会的な治療を行うことによって脳の働きをもっと良くすることができるということも、ご理解いただければ良いと思います。」

Q.生活の障害と脳との関係は?

「生活の障害というのは、物を操作するときとか対人関係とか自分自身のこととか、3つに分けてお話しました。それは実は背景がありまして、人間の脳というのは、そういうことを3つに分けて処理しているんですね。人間の脳が働くときには、物事を操作するとか処理するとかというときの脳の部位と、対人関係をどうするかというときに働く部位と、それから自分自身のことについて考えるという部位と、それぞれ違っているんですね。ですからそれに対応して生活の障害があるというふうに考えていただいて良いと思うんですね。

ですから、今現在、その3つの範囲の中でどこが苦手になってしまっているのかということを、まずちゃんと把握して、その上でそれを治すためにはどんな工夫があるのかということを身につけていただくと、生活の障害は、より良くしていけるというふうに思います。」

Q.心理社会的療法を受けるときに大切なことは?

「それも当事者の方と(医療者とが)一緒に相談できると良いですよね。どういうことが苦手になってしまっているのかというのを、もちろんわれわれも判断しますけれども、やっぱりご本人自身が『こういうことが苦手になっている』ということは分かると思うんですね。その苦手になっていることについて、『じゃあこれはこういうふうに改善していこう』というふうに、当事者の方とわれわれ専門家が一緒に相談しながらできていくと一番良いと思います。」

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