統合失調症と向き合う

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藤井康男さん
藤井 康男さん
(ふじい・やすお)
山梨県立北病院院長、
慶応義塾大学医学部精神神経科客員教授
1977年慶応義塾大学医学部卒業。1978年4月 山梨県立北病院に勤務。1985年9月 医学博士を授与。1985年8月〜1年間 フランスのバッサンス公立病院へ留学。2003年4月山梨県立北病院院長に就任し、2007年4月より慶應義塾大学医学部精神神経科客員教授。
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1抗精神病薬出現前の治療法
●薬物療法が行われる前の治療法

「統合失調症とか躁うつ病とか、そういう精神的な病気と言われているものが、おそらく人類始まって以来ずっとあったと思うのですけれども、そういうものに対する治療方法というのは、なかなかなかったんですよね。少なくとも、1900年代の最初の頃までは、そういう方というのはちゃんと薬なり何らかの治療法で良くなるというよりは、やはり重い方は精神科の病院にずっと入院させられてしまうとか、そこで一生を終えるとか、場合によったら病院にも入院できなくて、家の中にずっと閉じ込められているとか、どこかをさまよい歩いているとか、いろんな形だったと思うのです。

昔、中世のヨーロッパで、“魔女狩り”というものがありましたが、あのように犠牲になった女性の結構の割合の方は、やはり精神的な病気の方がいらっしゃったのではないかということも言われていますね。だから病気と思われていなくて、ということもあったし、あるいはヨーロッパだと、大きな施設に入院はさせられるけども、かなりひどい扱いを受けて、場合によったら鎖でつながれたり、あるいは見世物にされたりということも決してなかったことではないんですよね。」

●ショック療法の誕生について

「そういう方に対しての治療は、『なんとかしなきゃいけない』というふうに、お医者さんも介護する方もいたわけだから、みんなが思っていたんでしょうけども…。そういう時に重要だったのは、そういう方が、非常に重い病気になる。例えばショック状態みたいになることがあったわけですね、体の病気とかになって。そうすると不思議にそのあと、その方の精神病も良くなるということが、臨床的に観察されて分かってきたんですよね。そこから逆に、人工的にショック状態を起こしたら病気が良くなるのではないかという発想が生まれたのが、1900年代の前半ですね。1930年代というのが、一番最初ですけど、その時に、いくつかのショック療法が生まれてきました。

インシュリンというホルモンを注射すると血糖が下がってきて、低血糖になってくると人間というのは昏睡状態になって、そのままいくと亡くなってしまうのですけど、亡くなる寸前ぐらいまでもっていって、また糖を与えてだんだんだんだんその方の意識を戻していく、こういうの(方法)をインシュリン療法と言いますが、これが1930年代に始まって、それまで明らかな治療法がなかった方を病人として扱って、もちろんお医者さんとしても治療する、あるいは看護婦さんが看護するという形が一番最初に生まれたのは、インシュリンショック療法の時代だったと言われていますね。

同時に生まれたのは、電気けいれん療法で、1930年代にイタリアで始まりました。通電をしてけいれんを起こす。これも1つのショックのあり方ですから、そういう形で非常に効果があったというふうに言われています。

ただインスリンショック療法でも電気けいれん療法でも、その治療はたいへんですし、入院していなければ基本的にはなかなか難しいです。一時期は良くできたのですが、そのあと良い状態を続けさせるというのが容易なことではないわけですよね。だから、病院での治療は取りあえずできるようにはなったのですが、当時のいろんな記録を見ていると、入院している患者さんがどんどんどんどん増えてきている。つまり精神科のベッド数は、ショック療法ができるようになってからも、どんどんどんどん毎年増えてきたという流れになったんです。

そこで大きな展開が生まれたのは、1950年代の前半ですね。新しい薬が次々と出てきた、大きな転換点になります。」

電気けいれん療法:かつて電気ショック療法と呼ばれたこともある。薬の無い時代の暗いイメージがあるが、現在は、厳格な監視下で安全な方法で行われており、けいれんの起こらない方法(修正型電気けいれん療法)が主流である。うつ病、躁病、統合失調症の急性期などに有効である。
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