①「1988年:クロザピンの再評価」
「世界中の精神科の病院なり精神科のお医者さんなり、あるいは患者さんご自身なりご家族なりが、『この状況は何とかならないものか』と、みんな考えているのですよね。で、大きな展開が生まれたのが1988年ですね。クロザピン(商品名:クロザリル)という薬が、再評価された。
表2 抗精神病薬による主な副作用 クリックで拡大します |
そこが、新しい薬、非定型薬あるいは第二世代の薬の始めだったのです。」
「ただ、クロザピンという薬は、実はもうちょっと古い薬なのですが、ずっと使われなかった大きな理由がありました。だいたい100人に1人ぐらいの割合で、血液系の副作用、特に無顆粒球症というかなり危険な副作用が起こる可能性があります。これはもちろん、きちんとモニタリングと言いますか、検査をしながら使えば、そして早期に発見すれば対応可能な副作用です。(ですから)ちゃんと検査をしないと、その薬を使ってはいけないというシステムを作る必要があります。
クロザピンの副作用というのは、それでなくなるようなことはなくて、もちろん100人に1人以外の人は、そういう副作用が起きないわけですから。で、もちろんそれだけではなくて、他にいくつもクロザピンの副作用はあるのですけども、クロザピンの効果というのは非常に著しいわけです。それまでの薬ではどうしても治らなかった方、こういう方を“治療抵抗性の統合失調症”というふうに定義するのですけども、そういう定義に合致した方に関しては、クロザピンを使っていこうという体制が、1990年代の前半には、世界で次々と作られるようになってきて、標準的な治療法として確立していくという流れがありました。
で、残念なことに、クロザピンという薬は、治療抵抗性の統合失調症に使う標準的な薬だということが確立されてからも、日本ではクロザピンが導入されてこなかったのです。実は、日本でクロザピンを導入しようという動きが何回もありまして、臨床試験が何回も行われていて、私もずいぶんそれに関わったのですけども、やはりうまく進まなくて、必ず中断してしまうということがあって、つい最近までクロザピンがないというのが、日本の状況でした。つまり、一番重症の難しい患者さんを治療できる薬がない中で、日本の精神医療が進んできたというのが、間違いない事実ですね。」