「たくさんありますね。主治医では、『人生、あなた次第』という言葉ですね。 どんなふうに生きようといいんだが、と。その人生を生きるのはあなたであって、あなた次第なんだよということ(を)、2人目の主治医が言いましてね。よく考えてみたら、ま、そうだなと…。
それと看護師の方ですごく印象的な方が2人ほどいらっしゃるんです。どちらも男の方なのですが。特に何かをされるのではないんですよ、2人とも。かといって聞いていないかと言ったら、ちゃんと話は聞いていて…。
そのうちの一人の方が、ある時に、私、入院中暇だったので小説を書いていたんですよ、ひたすら。まあ、暴れたりもしていたんですが。暴れて、よく揉め事になっていたのですけれど。その合間とか、穏やかな時に小説を書き散らしていたのです。
(看護師が)『小説、何書いているの?』という。原稿も、当時まだワープロとかも持ち込み禁止だったので、原稿用紙に書いていたのですが、それを見せると、だいぶ読んだあとに、『小説家になりたいのかね』と言われて、『うーん、なりたいかなりたくないかと言えば、小説を書きたいなあ』とか言ったら、小説家かどうかというのは、発表数の多さじゃないからねと。『寡作(かさく)の作家って知っているかね』とか言うんですよ。発表作が少ない作家のことですかと言って(たら)、まあ、そういう作家もいるんだよと。それでいいじゃないかと言われて。『やるんだったらね、ただ大変だよ』と言われましたけれど。
人間て、なんて言うんですかね、時間的な長さとか、時間の量とか体験の量じゃなくて、体験した質とか、体験したものの密度の濃さとかじゃないかなと思ったんですよ。その看護師さん、実は、ものすごく密度の濃い人だったんじゃないかなと思うのです。だから、『やりたいようにやりゃあいいんだ』と思いましたね。
もう一人は、すごく穏やかなのですが、精神科の看護師というのは、男性が多いんです。『こらあかん』と思いましたね。」