統合失調症と向き合う

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糸川昌成さん
糸川昌成さん
(いとかわ まさなり)
精神科医・分子生物学者。東京都医学総合研究所に精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダーとして勤務している。1961年(昭和36年)生まれ。母親が病気体験者。分子生物学者として研究に従事しており、週に1度精神科病院で診療を行っている。妻、息子2人、娘1人の5人暮らし。著書に「臨床家がなぜ研究をするのか—精神科医が研究の足跡を振り返るとき—」「統合失調症が秘密の扉をあけるまで」(いずれも星和書店)がある。
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8両親からの学び
Q.ご両親の体験を通して感じたことは?

「今回の一連の経験で非常に大きなことが分かったのです。母の姉に聞いたところ、面会に行くと母は、ほとんど病気のようには見えなかったというのです。おそらく抗精神病薬が効いて、幻聴と妄想が治まっていたのだろうと思うのですね。でも、退院させると具合が悪くなってしまう。いわゆる薬で脳は治った状態になっていたのだけれど、生きる人としての回復を遂げられない状態がずっと続いていた。30年間脳だけが治って入院していたというのが、母だったのではないかなと。

で、先ほど申し上げたように、母が鞄や父の背広を切った意味とか、母が北海道へ帰ったら、どうして帰ったのかと、そういう文脈を理解してあげたならば、母は脳が薬で治ったと同時に魂が治ったのではないかなと、そう思ったのです。

それは精神科だけではなくて、がんの治療においても、父が父の物語をしっかりと描き得て腑に落ちる生き方をできた時には、抗がん剤の副作用もほとんど出ない状況で、一見認知症で手足が拘束されていた人間が、ちっとも認知症の症状が出ないという状況になると。

父と母が自分の命をかけて、息子の私に、『医療とはどういうものか』ということを、体を張って教えようとしているというふうに、その時感じました。薬や抗がん剤は、それは細胞を治すかもしれないけれど、命そのもの、魂そのものが救われるためには、その人固有の、腑に落ちる物語の中を生き続けなければならない。『ああ、僕はこの両親の元に生まれて、ほんとうに良かったな』と。25年精神科医をやったこと、『ほんとヤブ医者だったなあ』と思い知りました。ですから、ここ最近、私の臨床の質は非常に変わった感じがします。」

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