「私がつけている(人工肛門の)用具というのは(あまりキレイな話じゃないのですがごめんなさい)、便をそこに受けられる容量があるのです。非常に不規則に便が出る場合、いっぺんにバーと出て、袋では入りきれないような量が出るときがあります。トイレが間近になかった場合、それを処理できないので、つけている用具が外れてしまったりして、たいへんなトラブルになります。ましてや電車のなかでそのようなことがありましたので、それはもうたいへんですよ。現実に、同じように人工肛門の方で、電車のなかで(ごめんなさい)糞便をまき散らして、自殺したくなったという体験談を聞いたことがありますから。
トイレがあったとしても、昔の和便みたいな構造ですと、用具に溜まった便を排出するというのがたいへんなのです。もういろいろトラブルが起きるのです。そういうことにならないようにと、やはり外出は避けました。」
「いちばん困るのは下痢です。外出先で下痢が始まったらもうこれはアウトになっちゃう。というのは、もう次から次へと排出物がありますので、トイレへ行ったらそこへ入りっぱなしでいるとかしないと、なかなか処理できないのですよね。ですから、あとはもう自分の食生活でそのようにならないように、ある程度警戒していく以外、方法はないですね。」
「直腸がんをする前と今とでは、私の行動半径はいろいろな質を考えると、やはり半分以下になりましたね。うん。ですから今でも手術以降は、国内旅行はしていますけど、海外旅行は一度もしていないです。海外へ行って絶体絶命のピンチになっちゃうとたいへんですから、やはりその点は慎重に考えますので、病気して以来、海外旅行はしていません。
日本は北海道から九州までずいぶん旅行しますけど、日本はこういうもののインフラがどこに行っても実にちゃんと整っていますね。多少こちらの希望で『もうちょっといいのがあればな・・・』というのはありますけど、その点は非常に設備が徹底していて、設置されている条件としては立派なものがあるのではないですか。
私はもう76歳ですから、自分の行動半径がかなり縮小されてももう十分なくらいですけど、若い方はやはり無限の行動範囲が必要だし、そういうことを願う方もいらっしゃるじゃないですか。そういう方が、自分のこうやりたいああやりたいというような希望も願望も、病気になったことによっていっさいシャットアウトされてしまうと可哀相だなということを僕は感じます。」
「手術をしてから全く使わなくなったのは、大衆浴場です。あそこにはもうそれ以来一度も入っていないです。友達との温泉旅行とか、いろんな団体との温泉旅行というのは、いっさい行かなくなりました。
日本の社会のひとつの風潮として、必ず皆団体で『温泉旅行に行こう!』というのが多いのです。『今度、みんなで温泉旅行に行こうよ』とかね。そういうふうにかなり年中誘われるのですけど、私は必ず口実を設けて、『ちょっとその日は他に予定があって行かれないよ』とか、そういうふうにして断っています。
やはり大衆浴場は(人工肛門の)用具をつけて温泉に入った場合、それなりに防水効果のある用具ですから何もリスクはないのですけど、他の方が見たときにあまり快くはないんじゃないですか。『何だろうな・・・』というそういう違和感てあるのではないですか。やはり何か不潔なものをつけた状態で自分達が入る温泉場に入ってきているという、そういう拒否反応は、私はあるのではないかと思いますね。
ですから家族とは温泉へ行きますけど、そのときは必ず貸し切り温泉のあるところを借りて、そこへ私一人入ると。大きさはちょっと違います。小ぶりですけど、温泉のその質は同じだろうと思いましたね。そこへ入って、ある程度まあ慰めているという程度ですね。」