「歌舞伎が好きで、行ってよく3階席から声をかけたりなんかしますけど。ただ、ここのところあまり歌舞伎は行かないのです。3階席っていらっしゃったことあります?席が狭いんですよ。この前、行って観ていましたら、私もちょっとうっかりして開幕前にお弁当を食べちゃったの。そうしたらどうしたものか、窮屈なところなので体を縮めて緊張していたら逆に、ガスが『ぷっ』って出るんですよ。そうしたら隣にいた女性が最初は何か雑音かなというふうに思ったのでしょうけど、立て続けに結構大きい音が出ましたから、そのあとその席からいなくなっちゃった。それ以来、歌舞伎は3階席の狭いのでなく、1階の1万円以上の席にゆったり座ったほうがいいかなと思いました。そういうこと、結構あるのです。
ですから(人工肛門を)知らない方だと、『相当不作法な奴だな』と思われる場合がありますから。あまりおつき合いのない方と会食するというのは、やはり相当神経を使います。人工肛門だとわからない方は、ただ音はするけど、それが脇腹から出ているとか下から出ているとかは判別できません。普通の方は、人工肛門がどういうものかなんてほとんど知識がないですからね。どういう構造でどうなっているのかほとんどご存じないですから。ただ『ブー』って音がするという、それだけの話ですよね。
健常者の方はガスをコントロールできるのですが、私たちはそのコントロールすることができない。出てくるものはもうブレーキがかけられない。ノーブレーキ状態。これがひとつ、ちょっと頭痛の種であることは確かです。」
「絶対に食べなくなったものはあります。ガスを発生させやすい食べ物、たとえばサツマイモなんかを食べると、すぐに(ガスが)出てきますからね。知らない方の前ではなるべくサツマイモを食べることは避けるようにしています。ゴボウを食べないのもそうです。ねぎとかニンニクとかああいう類もそうです。そういう点では、やはり病気をしてからは食事の量、食材、それと食べる時間はよく考えるようにしています。
排便があった日は、カレンダーに必ずマークをします。どのぐらいの量の排便だったとちゃんとチェックしています。そうすると『あの日に排便して今日まで1日ない』とか、『この前の量がそうだとすると今度はちょっと多めのものが出るだろうな』という自分の排便のスケジュールを見て、たとえばどこかへ出かけて行こうかなと思っても、やめてずっと自宅にいて、ある程度排便に備えるみたいなことはします。これはもう考えすぎかもわかりませんけど、私はそういうふうに対応しています。」
「自分が患った病気だからこれは仕方がないな・・・という、もうそういう自覚はありますね。そのために自分の人生を敢えて否定的に考えるとか、そういうことはありません。それよりも自分が食生活とか生活のリズムを考えることによって、健全な状態で生きていかれる、この生きている喜びのほうが遙かに価値があります。これはどんなに高額なお金で買ったダイヤモンドよりも、私は生きている人生の意味というもののほうが、やはり大きいと思います。ですから『がんになったからもう自分の人生終わり』とか『人工肛門になったらもう生きていても意味がない』というような否定的な考え方は全くありません。自分で規制される行動より、自分でできる可能性のなかで、やっぱり自分の喜びとかあるいは自分の価値を認めて、見いだしていけばいいわけですから。」