「体の表面に傷ができないということが内視鏡治療の最大の利点ですが、一方で内視鏡治療でがんを切りとるときに腸に穴が開いたり、あるいは出血をしたりすることがあります。このような合併症が、頻度は低いですが起きる危険性があることを念頭においておく必要があります。
また、粘膜と病変の境界が不明瞭(はっきりしない)な場合や、大きいものを無理して切除する場合、あるいは予想より根が深いところまで病変が及んでいるような場合に、(病変を)きれいにとりきれなかったり、わずかにがんをとり残すという危険性もあります。」
「(難しいのは)ポリープが平べったくて大きいものです。粘膜にとどまっている、あるいは粘膜下層に少し入っているかもしれないものを切除したときに、傷が大きくなって、結局、穴が開いてしまうということがあります。病変部分を焼き切っていくわけですから、焼いている時間が長くなると、その外側にある筋肉の部分まで切りとらないといけなくなる場合もあります。そうすると、(大腸の)壁が薄くなって圧力がかかったときに裂けて穴が開いてしまう、ということがあります。
それから、(腸が)癒着をしていると、病変があるのはわかっても、適切なところまで内視鏡(カメラ)が進められないことがあります。空気の入り具合によっては、お腹に痛みが出てきてしまい、そうなると内視鏡を奥まで挿入ができないこともあります。麻酔をかけて行う場合もありますが、機械的に無理やり内視鏡を入れることによって、機械的な力が加わって、腸が裂けてしまう穿孔(大腸に穴があくこと)が起きることもあります。」
「最近は、穴のあいた部分に内視鏡的にクリップをかけて、そのまま閉じてしまうということが技術的にできるようになっています。しかし大きな穴が開いた場合は難しくなりますので、一般的には緊急の手術で穴が開いた腸を切りとる、あるいは腹膜炎を起こす危険性が高くなりますから、お腹の中をよく洗うという外科的な治療が、緊急で必要になることがあります。
その場合には、迅速に対応することが大事です。腹膜炎の状態でずっと放置されると、場合によって非常に不幸な転帰をとる、つまり腹膜炎が悪化して命を落としてしまうという危険性もあります。腹膜炎の場合にはすぐにお腹が痛くなりわかりますので、そういう危険性があったときは躊躇せず、緊急手術を受けることが大事です。」
「がんの切除後、血管が露出していると、便がそこを通過した刺激で出血を起こすということがあります。怪しい露出血管がある場合、通常はそこを金属のクリップで治療中に止血します。実際には(露出血管もなく)大丈夫と判断して治療を終えるわけですが、その後のいろんな刺激によって血が出ることがあります。ですから治療後はしばらくの間安静にして、食事も数時間遅らせることがあります。どのぐらいの部分を切りとったかによって、その後の安静度は違います。」
「それから、治療前はこの程度だろうと思っていたのが、とったときに思ったより病変が深い場合があり、そうすると途中で切り残してしまう場合があります。それから病変を切りとる場合には、ある程度正常な部分を含めて粘膜をとってくるわけですが、その境界が非常にわかりにくい場合には、切りとったときに一部切り残してしまうという場合もあります。」