がんと向き合う

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武藤 勇 さん
(むとう・いさむ)
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岡山県出身。41歳(1986年)のとき家族性大腸ポリポーシスによる大腸がんと診断され、大腸を全摘出、ストーマ(人工肛門)を小腸に造設。60歳でガソリンスタンドの経営を退き、人生を探す旅を開始。2010年旅先の北海道で感じた思いから、牧師になることを決意。自宅を「フリースペース風曜日」として開放、お年寄りから若い人まで多くの人が交流する場となり、自身の使命を追求する毎日。
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1はじめの症状

「私は25歳からガソリンスタンドを経営して、長男・次男が生まれて、15年あいて41歳のときに娘が生まれた。その4ヵ月後に下血があったわけです。それまでは痛くもかゆくも、本当に全く何の自覚症状もなかった。ごはんはおいしいし、本当に毎日毎日が仕事に追われていた。ただ下痢がかなり続いていて、私の奥さんに『一度病院に行ったほうがいいんじゃないか』としょっちゅう言われていたけど、しんどいとか痛いとかがなかったから、仕事に追われて全然病院にも行かなかった。

そのころ、東京医科歯科大学から大腸がん検診を勧める案内が毎年来ていたのです。『なんでこんなものが来るのかな?』と。そのときに私は自分の病気のことは全く無知だったから、結果的に『家族性大腸ポリポーシス』という病気だったんだけど、その系統の情報が集まっていたのか、東京医科歯科大学から通知を流していたんですね。」

●突然の下血

「ある日突然の下血で、この土地の病院に走ると、『大腸にポリープが20万個以上ある』と言われ、『うちでは手が出せない』という状況でした。実際に数えたわけではなく『広範囲にこれだけあるから、この面積では20万個以上のポリープがある』と。『これは残すわけにいかないから、大腸を全摘出して・・・』と大学病院に送られて、大学病院でも同じようなことを言われた。『もう交通事故に遭ったと思いなさい』という表現です。『ポリープが無数にあって絨毯の状態。そのうちいくつかががん化して崩れての下血。家族性大腸ポリポーシスという病気です』ということ。

もう『すぐにでも手術してほしい』という思いだったのに、なかなかベッドが空かない。病気がわかったのが、6月13日金曜日、手術に入ったのは7月23日だから、1ヵ月以上(ありました)。その間に『もうだめになるんじゃないか』いう不安な思いだったけど、お医者さんが言われるのは、『ここまで来るのに20年以上かかっていますよ。もう20歳のころにはあったであろうから、今さらそんなに慌てる必要はない、がんは突然死ではないんだ』と。

『その前に、本当のことを言ってもいいですか?』と先生に言われて、『ええ、もうぜひ。残った時間をどうしたらいいか考えたいから、本当のことを教えてください』ということで、すべてお聞きしました。それで、仕事も整理しなきゃいけない気持ちになって、家族との別れ、特に生まれたばかりの4ヵ月の娘との別れを思ったときには、毎晩ベッドで枕を濡らしました。」