がんと向き合う

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武藤 勇 さん
(むとう・いさむ)
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岡山県出身。41歳(1986年)のとき家族性大腸ポリポーシスによる大腸がんと診断され、大腸を全摘出、ストーマ(人工肛門)を小腸に造設。60歳でガソリンスタンドの経営を退き、人生を探す旅を開始。2010年旅先の北海道で感じた思いから、牧師になることを決意。自宅を「フリースペース風曜日」として開放、お年寄りから若い人まで多くの人が交流する場となり、自身の使命を追求する毎日。
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8喜びを実感するとき

「変な話なんですけど、食べたものがこの姿になって出てくる、目の前で流れて行く、この不思議さ。食べたものがどうやってこんな姿になっていくのか。この体の中で何が起きているのか。火を使うわけでもない、鍋を使うわけでもない、食べたものが消化されて、この姿になってくる。この不思議を毎回、『神様はなんという不思議なことをこの体の中で・・・』と思います。それが健康なときには、トイレをするのは当たり前で、何も感じたものではない。今はパイプが詰まれば掃除をしながら、本当にひとつひとつが感謝です。本当に変な話だけど、減圧(排便)のときが喜びのときです。

そもそも、このようにとらえることができたのは、日本オストミー協会岡山県支部の前身である岡山県互療会を起こされた三宅先生という方のおかげで、たまたま先生が私どものガソリンスタンドのお客さんだった。私が健常者のときに、先生に『互療会ってどんな会ですか?』と聞いて、それが人工肛門・人工膀胱の患者会だということを聞いて知っていた。

それで下血があって手術を受けるとわかり、『先生、私もオストメイトになるようです。私もこの会に入らせてください』と。健常者のときにその会を知っていたから、非常に恵まれた状態で手術台に上ることができた。そして心構えができると、予後がいいということを私は体験した。

だから私は健常者に『もし人工肛門、人工膀胱になっても、このように元気になれますよ』という姿を見せたいと、そんな思いです。自分の生かされた喜びを伝える、私がこの病気をした意味がそこにある、『間に合いたい』という思いです。

だから病院訪問ボランティアで、手術台にこれから上る、手術後、退院してどうなるか、これから社会をスタートするという不安な思いを抱える患者さんに間に合うために、私はこの立場を与えられたと。そんな思いで毎日過ごしています。」

●日野原先生のおかげ

「患者会でオストミー・ビジター(主に傾聴と情報提供を行って同じ障害者を支援するオストメイト)として病院訪問ボランティアをするのに、なかなか医療側から信頼されず、いくらお手伝いがしたくても病院に入らせていただけなかった。

日野原重明先生(財団法人聖路加国際病院理事長)に、『病院にボランティアを受け入れてほしい』ということをお願いしたけれど、最初のうちは日野原先生もなかなかいい返事をくださらなかった。でも何度かお願いしているうちに、岡山県互療会が日本オストミー協会岡山県支部になって10周年記念のときに、日野原先生にお願いすると、快く引き受けてくれた。『私たちもボランティアでやっているから、先生もボランティアで来てください』とお願いしたら、先生がボランティアで来てくださった。県内のそうそうたる病院の院長を対象に、岡山大学の図書館を会場に医療従事者向けの講演をしていただき、“ボランティアの必要性”を説いてくださった。

すばらしい講演をしていただき、あれから病院側、医療従事者側の考え方も変わったんじゃないかと思います。病院の評価に『“ボランティアを受け入れているかどうか”が加えられる』という面、欧米がそのようで『日本もそのようになるだろう。大事なことなんだ』という話をしてくださった。それから本当に空気が変わったようなりました。今はどこの病院でもボランティアがかなり入ってきているんじゃないかと思います。

立派な病院の外来の真ん前に『患者相談支援センター』を開き、患者のオストメイトサロンを用意してくれた。なかなかドアが堅かったのが、本当にあっという間に開いて、今度はこちらがスタッフを養成するのがたいへんなくらいで。このような流れになったのは日野原先生のおかげもあります。」