がんと向き合う

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武藤 勇 さん
(むとう・いさむ)
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岡山県出身。41歳(1986年)のとき家族性大腸ポリポーシスによる大腸がんと診断され、大腸を全摘出、ストーマ(人工肛門)を小腸に造設。60歳でガソリンスタンドの経営を退き、人生を探す旅を開始。2010年旅先の北海道で感じた思いから、牧師になることを決意。自宅を「フリースペース風曜日」として開放、お年寄りから若い人まで多くの人が交流する場となり、自身の使命を追求する毎日。
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4脳天を一喝された思い

「それまで私は『すべてを自分の力でやってきた』という自信があって傲慢だったのが、この病気で本当に『自分ではどうすることもできない。すべてをゆだねる』というか、『砕かれた。脳天を一喝された』という思いがしましたね。

手術が終わったときに、かすかではあるけど確かに『武藤さん、手術が終わりましたよ』と主治医の声が聞こえて、『ああ、これで生かされた。また帰ることができた』と思いました。これは私にしたらイエスの声で、イエスが足なえ(肢体不自由者)に

『さあ立って歩きなさい』
─新約聖書 使徒行伝 14章10節

と呼びかけられたのを、主治医の声を通して聞いた。『あぁ、僕もこれで立って歩ける。これで生かされた』と(思いました)。

私の体が朽ち果てるところを、身代りに大腸、肛門が死んでくださった。それが、イエスが身代りに十字架にかかったことと重なって見えた。だから愛おしい。病院で『もう交通事故に遭ったと思いなさい』と言われて、自分がもうだめだと思っていたのが、私の身代りにこれらが死んでくださったと(思いました)。」

●回復の痛み

「そのあと腸がぜん動運動を起こすたびに痛み、お医者さんや看護師さんが『痛み止めを打ちましょう』と言われたけれど、もうこの回復の痛みを味わっておきたかったから、痛み止めをいっさいお断りして、腹わたのねじれる痛みを我慢しました。そのときの悲鳴を子供たちが聞いて、『もうお父さんは、だめだ。これで終わりか』と思ったらしい。『あのお父さんがあんな悲鳴を上げている。自分たちもしっかりしなきゃ』と感じたと、これはあとから子供たちから聞いた話です。」

Q.なぜ痛みを我慢したのですか?

「私はクリスチャンで、イエスが十字架にかかったときに痛み止めなんてなかった、釘を打ち込まれる痛みに比べれば、『こんな手術の痛みなんか絶対に我慢しなきゃいかん、これで生かされるんだったら我慢しよう』と本当にその思いだったですね。」

●すべてをゆだねる

「術前に『こんなことが人生にあるだろうか』というようなことが2度、3度ありました。本当に小説より奇なりというような経験が限られた期間にあり、ひとつひとつそれをこなした。そうして本当に神様と取り引きじゃないけど、『これだけ私は頑張っている、なんとかしてください。垂れ流しでもいいから生かしてください』と。

でも、自分の無力さどうすることもできない。もう御心のままに『もうこれでよい、よう頑張った』と天に召されるならそれは仕方がないと。許しがあるなら召されるだろうし、『まだお前には仕事があるぞ』と言われるのであれば生かされる。そのような解釈で手術台に上りました。

そして主治医が『手術が終わりましたよ』という声を聞いたから、『ああ、僕にはまだ仕事が残っている。生かされた』と。親族は(手術して)3年で死んでいるから、『これで生かされてもまあ3年かな。本当に残されたろうそくは短い』と、そんな思いではありました。それが今日まで26年、もう嘘のよう・・・。感謝です。」