がんと向き合う

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藤井文雄 さん
(ふじい・ふみお)
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香川県出身。59歳(1999年)のとき会社の人間ドックで直腸がん(前がん状態)が見つかる。開腹手術を受け、ストーマを造設。3年後、原発性の前立腺がん(ステージT3a)が見つかり、ホルモン治療後、粒子線治療を受ける。現在は副作用を経過観察。2001年より日本オストミー協会兵庫県支部幹事、ピアサポーターとしてオストメイトの相談にのる。趣味は四国などの山歩きと読書(好きな吉村昭、司馬遼太郎はすべて読了)。
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43年後の前立腺がん

「会社の人間ドックでPSA(前立腺特異抗原)という血液の数値を検査するようになり、普通の人は数値が4以下なんですけど、私は8ぐらいに上がっていました。それで専門の医師に診断してもらいました。直腸がんをやって3年か4年後ですから、そのあたりにまた前立腺がんになってきたということです。

直腸がんでストーマを作ってから前立腺がんになったのは運が悪いというか、いわゆる医者泣かせというか。こっちも困るんですけども、泌尿器科の先生に病歴を言って『ストーマがあります』と言ったら、その先生が頭を抱え込んでしまいました。『うわ・・、尻抜いとるんか。どないしよう』という言い方をするんですね。ちょっとショックでした。

前立腺がんは、肛門からプローブを入れて超音波の画像で診断するんですけども、肛門がないとそういう検査ができないということなんです。

それでその泌尿器科医は頭を抱え込んで、『このまま3ヵ月様子を見て、その間に勉強さしてもらう』と言われて、非常に困りました。ですのでセカンドオピニオンを受けて、別の泌尿器科医に変わりました。」

●ホルモン剤による治療

「前立腺がんでPSA値が上がって、CTとMRIを撮って『ステージはT3aです。がんは外には侵入していないけど、そろそろ手前です』という診断を受けました。そのあと実際の治療にかかるまでは、5ヵ月ぐらいかかって、やっとホルモン剤による内分泌治療をやりだしました。

ホルモン剤のリュ―プリンとカソデックスというとことん男性ホルモンが出ないようにする薬を2種類、9ヵ月ぐらい服用したり注射を打ったりしました。」

●不思議な体験

「山を歩いていたとき、ちょっとした窪みですぐ簡単に転ぶんですよ。擦り傷や切り傷をして『あれ?』と思いました。全然予想しないようなところですぐに体がパターン、パターンと倒れるんですね。

たとえばウォーキングしてこけるのも、男性ホルモンが出ないから筋力がだんだん退化して、そういうことろに現れてくるんです。そんなの全然わからなかったですからね。

それから退院して半年以上、リュープリンをやめて9ヵ月ぐらい経ち、そのときにはじめて、女性に色気をぽこっと感じたんです。それで『あれっ?今までなんやったの?』と思いました。女性とか女性の色気とか、全く自分の頭の中から消えてしまっていて、女性に対する意識が全くなかったわけなんです。

それをあるときに思い出してきて、『仏さんゆうたら、こんなもんかいな』と思ったですね。色欲というか、女性を感じる部分が全く何もないですからね。人間が仏さんになるとき、いちばんはじめに菩薩さんになるみたいで、『菩薩さん、仏さんというのはこんな感じかな。それでみんな全員に慈悲をくださるんかな』と思ったらね、びっくりしました。

もうひとつは、薬は怖いなと思ったんですよ。男性ホルモンが全く出なくなってしまって、性欲が全く抜け落ちてしまうんですね。それと同時に『無意識、空というものはこれかな・・・』と思い、人間でおりながら仏さんにある部分だけちょっと近づいたのかなと感じました。」

●PSA値低下後、服用をやめる

「粒子線治療をする前に、PSA値はほとんど0.01とか、そのぐらいに下がっていました。粒子線を当てるときには、放射線の医師から『内分泌治療はやめてください』と言われて、それでやめたということです。」