■WHOの勧告 「がん医療のあるべき姿」 |
「若い医師や若い看護師にとって、がんの患者さんは40、50、60歳でお父さんやおじいちゃんの年代ですから、接していくのは難しいことだと思います。健康なときでも『あのじいさんと付き合うのはたいへんだ』と思ったりすることもありますね。しかし、職業人として付き合うのであり、自分の経験したことのないことで患者さんは悩んでいるわけですから、わかってあげる態度で接していくというのがまず何より大切だと思います。それを『医者なんだから、私のほうがわかっているんだ、あなたのほうがわかっていないんだ』という態度で接するのと、患者さんのことをわかってあげようという態度で接するのとでは、患者さんの受け止め方に大きな差ができるでしょう。その辺を心得るのが第一に必要だと思います。」
「患者さんにわかりやすい話をしてあげるということをまず第一に心がけています。また、患者さん側には『何でも聞いていいんですよ』というふうに接すること。それから、患者さんと視線を交わしながら、その気持ちに焦点をあてて話を進めていくこと。そうしますと、『もうこの話聞きたくないや』という患者さんの気持ちもわかります。『続きの話は、明日にしましょうか』と言うと、『そうしてください』という患者さんと、『もっと聞きたい』という患者さんがいます。そういうようなやりとりをしていくのが基本だと思います。そして、決して嘘を言ってはいけません。」
「平等の立場に立った人間同士でチームを作っているのだ、看護師も薬剤師も、あるいはその他の技師の方たちも医師も、同じ人間として平等の立場に立ってそれぞれの仕事をしているのだという理解のもとに接触していくというのが、チームワークを強める基盤です。医師だけが殿様みたいな顔をしているようなところでは、よいチームワークは育ちません。」
「緩和ケアにはWHOの定義があります。それは、『生命を脅かす病気がもたらすいろいろな問題を解決し、患者さんと家族、双方のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を改善するためのアプローチであり、痛みなどの身体面の苦しみ、心の苦しみ、人間として生きていくうえでのいろいろな社会面の悩み、心の奥底に抱える悩み(スピリチュアルな問題)を早期に発見し、早期から対応する医療』という定義です。
日本の方たちの中には、緩和ケアは死の直前の医療だと誤解している向きがありますが、正しくは、どんな病気の方でも、命にかかわらない病気になったときでも、緩和ケアの併用があってこそ、非常に楽に病気の期間を過ごすことができるのです。風邪をひいたときでも、緩和ケア的なアプローチがあると楽に過ごせるのです。 」