統合失調症と向き合う

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高森信子さん
高森 信子さん
(たかもり・のぶこ)
こころの相談員/SSTリーダー
小学校や幼稚園の教師を経て、子どものこころのアートセラピストとして、幼児・学生の美術教育に15年携わる。1985年よりカウンセラーとして活動を始め、その後東京大学デイホスピタルでのSSTリーダー研修を経て、1989年より地域作業所、デイケア、家族会などで当事者や家族のためのSSTリーダーとして活動中。最近では、保健関係者や他分野からの依頼もあり、年間約300回のSSTのために全国に出向いている。著書に「家族が知りたい統合失調症への対応Q&A」「心病む人のための高森流コミュニケーションQ&A」(いずれも日本評論社)などがある。
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9こころを閉ざしている家族へのアプローチ

「(作家)柳田邦男さんの、『犠牲』(サクリファイス―わが息子・脳死の11日 。文藝春秋)という本の中に書いてあるんですが、『心を病む人は、限りなく人恋しく、人の愛を求めている。だけど、人とつき合うと自分のコミュニケーションの下手さというところで、もう過度に気を使って、もうくたびれ果ててしまう。で、そういう自分をまた責めてしまう』と、こう言うんですよね。

だから、絶えず人との距離を測っている人、向こうは。で、安心できる人かな、それとも偽者かなという感じで、本質を見抜く方達ね。赤ちゃんとおんなじね。お病気の方は絶えず不安との闘いなんですよね。安心できれば心を開くけれども、安心できない場では、どんどんどんどん心を閉ざしていく、“自己開示”というのを閉ざしていく。自己開示ができるというのは、安心できる場、信頼できる人との関係ですよね。なので、いわゆる心を閉ざしてしまっている状況に、かなりのご家族がいるんですよね。

1人のお母さんですが、限りなく息子のために良かれと思う助言を言い続けたお母さん。その息子さんは『待ってよ』と言えない息子さんだったのね。で、結局息子さんが選んだ道は、母と断絶すること。母の指令を一切受けないということで、家の中でも姿を見せなくなって、お母さんがいなくなると、2階から降りてきて冷蔵庫を開けて食べる。お母さんもそういう息子さんにやっぱり愛情は持っているので、食べさせたい。でも私がいると食べないというので、2階に向かって『お母さんちょっと2時間ぐらいおつかい行ってくるからねぇ』と声をかけて2時間外で時間をつぶすんだそうです。

その息子さんが、ある時、薬も飲まない時期があって、大量の薬をいっぺんに飲んでしまった。お母さんがたまたま発見したので、救急車を呼んで内科に運んだんですよね。それで、お医者さんは胃洗浄をして、お母さんは1泊でも泊めてほしかったけど、内科では精神科は入院させませんというので、家に戻されたんですね。そのお母さんが、初めて息子の姿を間近に、息子は逃げる力がないからお母さんの前に横たわっていた時に、お母さんが久しぶりに、息子さんの背中をさすりながら、『何もできないあなたでいい、ごろごろしていてもいい、今のまんまでいいから生きててちょうだい』と初めて、今を認める言葉をかけたんですね。そしたら、その息子さんが次の日、自分から『お母さん』と言って声をかけてきて、会話が成り立ったんですよ、ね。で、今は、一緒に食事もしている。息子さんは心を開いてきたということなのね。

で、もう治ってしまったという感じになってしまい、また昔のお母さんに戻ってきたのね。それで、息子さんがまた調子を崩して、お母さんとトラブルが始まってきた。そのお母さんは、今度は自分が動揺を始めてきて、自分が安定剤を必要になってきた。ついこの間も衝突したそうです。一度、一番最悪のところまで行ったところで、お母さんの『今のまんまでいいんだよ、生きててちょうだい』という言葉で、そこから彼とのコミュニケーションが始まったのに、また踏み込みすぎちゃうというところで、嫌われていくということですよね。」

●距離のあるコミュニケーション

「いわゆる先生や親や目上の人の話が聞ける人と聞けない人がいる。自分の考えを実行するタイプと、上の人の話がちゃんと聞けるタイプとある。これは病気の人じゃなくてもある。で、ここ(中指)は両方が入っている普通の人。で、ここ(薬指)は、ほとんどが人の話は聞けないけれど尊敬する人、愛する人、信頼関係のある人の話は聞く。これ(小指)はまったく聞かない、自分の考えで行動する。ここ(一差し指)はほとんどが人の話に耳を傾けるけれど、たまには自分の考えが言える人。これ(親指)は自分の考えなしに人の言うとおりに、薬もきちんと飲む、お医者さんの言うとおりに作業所も行く、デイケアも行く、仕事も続く。

こっち系(薬指、小指)の人がとにかく断絶しちゃうんですよ、ね。そういう人に限りなく親が言うことを聞かせようと思って言えば言うほどダメ、ね。だから挨拶1つそうなのだけれど、返事を求めたくなっちゃうのね、親としては。コミュニケーションを取りたくて、もう揺さぶって口から言葉を出したい、強引にも出したいと思ってしまう親が、結構いるんですよ。そうすると質問攻めにする。それがなおさら向こうは口をきかなくなるということですよね。

だから距離のあるコミュニケーションをするということは、接近しないこと。まず、挨拶だけはきちんとしてください。で、無視しないこと。おはようとかお昼に起きてきたならば、こんにちはという感じで、声かけだけにしましょう、

質問をもらうような、開かれた質問とよく言うのですが、向こうが考えて言わなければいけない問いかけはしないこと。今日は寒いよ、風邪ひかないようにねというこちらのメッセージだけで、相手の生活の中に踏み込まないこと。

それがもしできてきて、向こうが挨拶しても怒らなくなってきたならば、次は褒めること。お昼頃起きてきた時に、『たっぷり眠れて良かったね』と言う。『会社行ってなくて良かったよ。寝る時間があって良かったよ。体が要求しているんだから寝ていいんだよ』と褒めてあげる。“食っちゃ寝”から褒めてください。食べられるということは、再発の前は食欲がなくなる。だから食べられるうちは大丈夫。『胃も丈夫で腸も丈夫で良かったね』と言ってあげる。作り甲斐があるよと言ってあげる。

褒めて向こうが“にや”っと笑い始めたならば、次は体のことを心配するというか、健康に関することを声かけしましょう。まったく口をきかない息子に向かって『昨日寝られたの?』などと言わないこと。これは健康に関する問いかけなので、もっと親しくなってからしましょうということなんですね。」

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