「これはね、自分がなりたくてなった病気ではない。親もこの病気にさせたくてなった病気ではない。でも、なってしまった以上は、その病気とつき合いながらの人生ですよね。
自分はそれまでにいろんな夢があったと思う。お仕事をしたい、結婚したい、旅行したい、いっぱいあると思います。で、回復してくれば回復してくるほど、やりたいものが見えてきますよね。で、一番大事なのは、みなさんにとって人生の目標は、症状のコントロール。症状のコントロールさえすれば、お仕事もできるよ、恋愛もできるよ、結婚もできるよ、子育てもできるよ。と、一番みなさんに言いたい。
そして、生きていることがお仕事、ね。だから、生き続けるだけであなたは人間としてのお勤めを果たしたことよと言いたいですね。生きているだけで立派ですという言葉を、一人ひとりに差しあげたいと思っています。」
「当事者が、この病気を受け入れた人がね、病気を治したいとみんな思っていますよね。ところがこの病気の方達はね、とってもまじめで誠実でウソがつけなくて遊び下手ね。要領が悪い、几帳面すぎるというところが、1つフィルターにあるんですよね。例えば障害年金をもらっていて遊んでいいのかと、ね。病気で仕事ができないために障害年金をいただいているんですが、障害年金で自分が読みたい本を買っていいのかぐらいまでに自分を責めてしまうというところがあるんですね。
自分を責めても1つもプラスにならない、この病気は。神田橋先生という先生がお勧めしているのが、とにかく楽しいことをしたほうがいいんだよ。だから修行だとか、いわゆる義務感でやるということは、このお病気の回復にとっては相反すること。幻聴を聞いていない時、妄想の世界に入っていない時の自分の時間、何やってる時なのかな、我を忘れるほど熱中する、楽しいこと。些細なことでいいから自分にとって心地良いこと。それをやると、それが病気にプラスになる。薬を増やすよりも楽しいことを増やすほうが、薬が減ってくるよということを当事者も言っていましたね。もう長い間病気している方がね、楽しいことをやっているほうが安定剤になるよと言っていますよね。
ストレスはなるべくためないで出すほうがいい。それが心地良いことをすることですよね。だからそのお勧め。ほんとに病気を治すために、勇気を出して遊んでほしい、心から遊んでほしい。そうすると元気になる。元気になったあとが、やる気なんですよ。もう一度勉強するかな、資格取ろうかな、ハローワークに行ってみようかな、電車乗ってみようかな、などというのが挑戦する気なんですよね。その元は、やっぱり楽しいことができる自分。だからご家族達も楽しいことがやれる雰囲気を作ってあげないとね。」
神田橋條治:1961年九州大学医学部卒、1984年まで同大学医学部精神神経科勤務、現在は、鹿児島市の伊敷病院に勤務。専門は精神分析、精神療法。「精神科診断面接のコツ」(岩崎学術出版社)などのコツ3部作のほか著書多数。
「ストレスがかかるというのは、家族と一緒にいる場合には、家族から受けるいろんな要求ですよね。『できないよ』ということが言えない人が結構いる。働いていないからなおさらお茶碗洗いぐらいしなきゃいけないんじゃないかというので、義務で決められている人もいるんですね。
でもこの病気は調子の波があるので、さっき元気でも、(今)落ち込んでいる時もあるので、義務感で『あなたのお茶碗洗いはあなたの仕事』と決められると、とてもできない時もある。でも、それを、勇気を出してお子さんが言った時には、『できないんだね』と言えるご家族になってほしいな。で、引き受けてほしいと思いますね。」