② 直腸がんの手術
●直腸切断術 (肛門を残さない手術)
「『人工肛門になる(肛門を残せない)イコール病気がとても進んだ状態である』と考える患者さんが多いのですが、そうではありません。がんの場所が肛門に近いところにあるかどうかで、肛門を残す手術をするかしないかが決まってきます。
がんを残さず取ることが大事ですから、肛門括約筋の近くにがんがある場合は、肛門括約筋まで含めて取らないと、安全な領域でがんを取ることができなくなる可能性があります。ですから肛門を一緒に取ることになりますが、『病気が進んでいたから肛門を残せない手術になった』ということではありません。
肛門括約筋がないと、肛門の皮膚に腸をつないでも排便のコントロールができません。ですからその場合は、肛門に腸をつなぐわけではなく、一般的にはおへその少し下の左側に、便の出口として腸を直接縫いつけるようなかたちで、人工肛門を作ります。」
●人工肛門の造設
「人工肛門というと『何か人工物をつけるのかな?』と考える方もいらっしゃいますが、違います。直腸切断術の場合、一般的にはS状結腸を皮膚の外つまりお腹の壁の外側に直接出して、そこに便を受ける袋(パウチ)をあてがうとことになります。」
■Q & A
「最終的には肛門を含めて直腸は全部取り去られますので、肛門のあった部分は、右側のお尻の壁と左側のお尻の壁をそのまま縫い閉じ、一本の線が入るだけの状態になります。」
「直腸指診で距離を測ってみればいいわけですが、一般的には『がんが肛門から6〜8cmの位置にあれば、肛門温存は可能である』と言われています。それより肛門に近い場合、肛門を残せるか人工肛門になるかは、患者さんによってずいぶん違います。
たとえば肛門から4cmのところにがんがある方でも、がんが直腸の背中側にあるのかお腹側にあるのかによって、肛門側の伸びてくる腸の長さが変わる可能性があります。また男性と女性でも骨盤の形が違って、男性は非常に細長い骨盤、女性は浅く広い骨盤になっています。肛門に近い直腸がんの手術は非常に閉鎖された狭い部分の手術になるので、このような要素によっても肛門を残せるか残せないかは個人差があるわけです。また太っている方、痩せている方、以前に手術をしたことがあるかどうか、がんの大きさがどの程度か、腸の壁全体を占めるのかごく一部なのか、同じ進行がんでも状況によってずいぶん違います。
ですから単純に肛門からの距離が4cmあるいは6cmといっても、場合によっては人工肛門になることもあります。手術前に『肛門は残せるだろう』と判断しても、手術の状況によってがんを切り残してしまう危険性がある場合は、人工肛門にすることも当然あります。これはそのときの状況によって考えていかないといけないですし、最終判断は手術のときに決めるということになります。
患者さんには手術前に両方の可能性についてお話をしますが、『手術のときの状況によって違いがある』ということだけは認識しておいていただければよろしいと思います。」
「切除不足による再発は、場合によっては命にかかわってくる危険性が高くなります。『あのときにしっかりと手術で取っておけばがんは再発しなかったかもしれない』という場合が出てくるかもしれないわけです。われわれ治療する側からすれば、再発の危険性がかなり高いようであれば、肛門を残す手術を選択するべきではなく、肛門の温存云々についてはあくまでも『がんを取りきる』ということを優先して考えるべきだと思います。
でも『再発の危険性があるかもしれない』からといって、すべて『肛門を残さない手術になる』というわけではありません。実際には『安全域まで取ったときにまだ肛門を残せるだけの余裕があるかどうか』で決めるべきであり、直腸がんイコール『安全な領域でがんを取るために肛門まで全部取ってしまえ』ということではありません。逆に『なんとか肛門を残したいから、顕微鏡レベルで多少がんが残っても肛門を残す』というようなことは、決して正しい選択ではないと思います。
あくまでも『適切な範囲を切除する適切な治療』を受けるべきであり、『肛門が残せるか残せないか』は最終的には実際に執刀する先生の判断によるところが大きいだろうと思います。」