「大腸がんの手術は、一般的には安全に行われる手術ですが、やはり一定の頻度で合併症が起こる可能性があります。合併症が起きると入院期間が長くなったり、場合によってはもう1回手術をしないといけなくなったり、あるいはがんに対する次の治療ができない、たとえば抗がん剤治療を開始できなかったり、ということがあり、ある意味では治療が遅れる可能性があります。
合併症を見逃してしまったり、それに対する治療が遅れたりすると、たいした合併症ではないといいながらも、命にかかわるような合併症に発展していく危険性があります。」
大腸がんの手術後の重大な合併症に、『縫合不全』があります。
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「ほころびが小さい場合には、食事をとるのをしばらくやめて便が通過しないようにすることで、炎症が取れてきます。そうすると、縫い目のほつれた部分の孔(あな)は自然に小さくなって治ります。ところがその孔自体が大きい場合には、便が相当お腹の中に漏れて腹膜炎という状態になります。お腹の中全体が便だらけになるような状態を放っておくと、数時間の間に一気に体の状態が悪くなります。
ですから、われわれが見て腹膜炎を起こしている兆候がある場合には、緊急で手術をして、便がお腹の中に流れ込まないように(上流に)人工肛門を作り、漏れたお腹の中の便はすべてよく洗い流すという対処をします。
半年ぐらいすると縫合不全自体は治まってくることが多いのですが、これは手術後、孔が治っているかどうか、定期的に造影検査をして確認する必要があります。実際に治っていることが確認できれば、作った人工肛門をもう一度吻合してお腹の中に戻して、肛門のほうから便が出るようにします。この手術はだいたい1時間前後で終わります。」
「縫合不全の場合には、手術後にまず38度以上の熱が出ます。尿路感染という場合もありますが、一般的には自覚症状としては発熱。あとはつないだところの近くにドレーンが入っていて、その部分のリンパ液が通常は薄い黄色の赤みがかったサラサラのお水ですが、少し濁ってきます。あるいは便が出る場合もありますから、においから『これは縫合不全が起きたな』ということがわかります。
その場合は絶食にして、造影検査(ろう孔造影検査や注腸造影検査)あるいはCTをして縫合不全の孔(あな)の大きさ、周りへの広がり(腸炎がどの辺まで広がっているか)を調べて、あとはお腹の痛みの状況(腹膜炎を起こしているとお腹が痛くなってくる)と発熱とによって、その次の治療をどうするかを決めます。」