「私が今、自分のテーマ、ライフワークとして取り組んで行こうと思っているのが、“治療と働くことの両立をどうするのか”という部分です。それはやはり自分がものすごく苦労しましたので、そこをなんとかしていきたいなと思っているのです。
今、大学で心理学を勉強しているのですけど、もうひとつ東京大学の医療政策人材養成講座というところにチャレンジしたのもそのひとつでした。そこには、『がん患者の就労、雇用問題をテーマに調査研究をやりたい』と言って入りました。それで調査をすると、やはり3人に1人が転職しているという結果が出てきました。自分もその3人のうちのひとりだったので、きっと(他の人も)同じような問題なのだろうというのはわかりました。自由回答覧には400件以上、言葉が寄せられて、そこに書いてある意見は本当に自分とぴったりマッチしていたのです。たとえば『治療のための休暇制度が欲しい』とか『有給休暇は別にしてほしい』とか『がん患者雇用促進法が欲しい』とか、そういう声がすごくあったのです。それで『あ、本当にこれは誰かがなんとかしていかないとだめだな』と思い、もう『自分がそれをやるしかない』と思いました。」
「このがん患者さんの就労問題というのは、たぶん医学の進歩で生まれてきた問題だと思っているのです。昔はやはり亡くなってしまう方のほうが圧倒的に割合として多かった。でも今はそうではなくて、全がんでいうと半分ぐらいの人は5年以上生きている。すごく長くなってきているのに、その根本的な部分、社会の受け皿として、『がんはすぐ死んじゃう』というイメージがものすごくあるなというのを痛感しました。
問題提起はすごくされてきたと思うのです。私たちもこの調査で発表したときに、この“3人にひとり”という数字がとても使われました。あと『4割は収入が減っています』という話とか、あちこちで使われたのですが、それだけでは困るのです。では、その3人にひとりの人たちをどうするかという解決策が全然出てこないのです。それはどこのメディアも取り上げていなかったですし、誰も考えていなかった。問題を提起して、『あ、かわいそうね。がん患者さんは』で終わっていては、がん患者として困るのです。そこをなんとかしなければと思ったのです。
これはもう言いだしっぺの私がやるしかないなと思い、共同研究者でビジネス・パートナー(NPO法人キャンサーネットジャパン理事 柳澤昭浩氏)がいますので、彼と一緒に『これは本格的に会社をやっていこうよ』ということで。『じゃ、もう私も退路を絶ってこの道に行くよ』と会社のほうを辞めて、こちらに移ってきました。
(会社の)皆に、最初に『辞めます』と言ったときに、『えっなんで?』と言われました。でもやはり自分の信念のほうがそれを上回っていました。今でもそのときの人たちは皆応援してくれていて『最近どうしている?』と電話をかけてきてくれて、いろいろとお付き合いをさせていただいています。」