「本来は、がんと診断されたときに、我々のような立場がお役に立てるシステムがあればいいのですけれども、今はまだ、そうはなっていません。ですからある一定の治療を受けて、そのあとでいろいろと思い悩んでいる方と出会い、お話をさせていただく機会のほうがずっとずっと多いのです。
がんと診断されたときのインフォームド・コンセントというものがありますね。説明と同意。『こういう状況ですから、こういう治療をしていきます』というインフォームド・コンセントが、あまりうまく進んでいないなぁという気がします。
がんと診断されたときに、大きな衝撃をどなたもお感じになりますので、その中で、医師が一所懸命説明されても、ほとんど頭に入ってこないとか、理解されないままに同意をしてしまったという話をよく聞くのです。するとあとで、ご自分と同じようながんにかかって、治療法がまったく違う。片や放射線治療で、傷跡もないし、生活の質も守られている。で、片や開腹手術などをして、いろいろな後遺症とか、ADL(日常生活動作)というか、体の機能が損なわれるようなことにもなってしまった。そういうときに、『本当にあの治療で良かったのだろうか』と、治療後の悩みを抱えてしまう。そういう方が非常に多いなぁという印象を持っています。」
「患者さんの悩みというのは、実にたくさんありまして、1つの悩みがもう1つの悩みを連れてくるみたいな、非常に多層的な苦悩というか…。そのすべてを医師が解決できるかといったら、必ずしもそうではないと思うのです。例えば、治療後の後遺症とか、副作用とか…。やはり、それを経験してきた人たちが、自分自身の創意工夫で乗り越えてきた、向き合ってきた、解決してきたという経験値みたいなものが解決に役立つ場合もあるのですね。
ところが私たちは今まで、100%医師や看護師に自分の問題解決を求めてきたというプロセスがあると思うのです。そういったところで、もっと体験者がお役に立てないか、そして立てる部分もあるということです。
最初は、サポートという言葉とか概念ではなく、がんを体験した者同士で語り合うことが、一種の安心を生み出すということを実感していました。集まっているうちに、やはり話し合いの中で解決したり、そのことで問題が整理されたりということが実際に起こってくる。そこからの気づきではあります。」